相続登記の期限

1 相続発生後3年以内に相続登記の義務

①所有権移転登記は原則として権利

不動産に対する権利が変動した場合、登記をします。

権利が変動した場合で最もイメージしやすいものは、不動産を購入して所有権を取得した場合でしょう。

不動産を購入して所有権を取得した場合、購入したタイミングですぐに所有権移転登記をします。

登記をしていないと、不動産に対して権利主張をする人が現れた場合に負けてしまうからです。

不動産を購入して所有権を取得したはずなのに、見知らぬ人が不動産は自分のものだから明け渡して欲しいと言ってくるようなケースです。

登記がある場合、不動産は自分のものだから明け渡す必要はないと言い返すことができます。

登記がない場合、不動産を明け渡さなければならなくなるかもしれません。

せっかく不動産を購入したのに、不動産を明け渡さなければならなくなることは何としても避けたいはずです。

不動産は自分のものだと主張するために、購入したタイミングですぐに所有権移転登記をします。

所有権移転登記をしない場合、所有者は権利主張ができません。

所有権移転登記をしない場合、所有者が不利益を受けます。

所有権移転登記をすることは、所有者の権利であって義務ではありません。

②相続登記は義務

所有権移転登記をしない場合、所有者はソンをします。

不動産に対して権利主張をする人が現れた場合、所有者のはずなのに権利主張ができないからです。

不動産には、不便な場所にあるなどの理由で価値が低い土地が存在します。

所有者にとって利用価値が低い土地に対して権利主張をする人が現れた場合、所有者として権利主張する必要を感じないかもしれません。

相続登記は、手間のかかる手続です。

自分で相続登記をしようとするものの、多くの人は挫折します。

相続登記をする場合、登録免許税を納付しなければなりません。

相続登記を専門家に依頼する場合、専門家に報酬を支払う必要があります。

不動産の価値が低い場合、相続登記で手間と費用がもったいないと考える人が少なくありませんでした。

相続登記がされない場合、登記簿を見ても土地の所有者が分からなくなります。

所有者不明の土地の発生を防止するため、相続登記をすることは義務になりました。

③相続登記は3年以内に申請

相続が発生した場合、相続登記の申請義務が課せられました。

「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該所有権を取得したことを知った日」から3年以内に申請しなければなりません。

④令和6年4月1日以降に発生した相続が対象になる

相続登記の申請義務が課せられるのは、令和6年4月1日です。

令和6年4月1日以降に発生した相続は、当然に対象になります。

⑤令和6年4月1日以前に発生した相続が対象になる

ずっと以前に相続が発生したのに、相続登記を放置している例は少なくありません。

令和6年4月1日以前に発生した相続であっても、相続登記は義務になります。

⑥相続登記未了であればペナルティーが課せられる

相続登記は、3年以内に申請しなければなりません。

相続登記の申請義務を果たしていない場合、ペナルティーが課されます。

令和6年4月1日以前に発生した相続であっても、ペナルティーが課される予定です。

2相続登記を放置すると遺産分割協議が難しくなる

①相続人が死亡してしまう

相続登記をしないまま放置すると、相続人が死亡してしまうかもしれません。

すぐに相続登記をするのであれば、気ごころの知れた兄弟で話し合いをすれば済みます。

相続登記を放置したことで兄弟の配偶者や兄弟の子どもと話し合いをしなければならなくなります。

疎遠な相続人がいると、話し合いは一挙に難しくなります。

相続財産の分け方は相続人全員の話し合いによる合意が不可欠だからです。

疎遠だから、行方不明だから、連絡を取れないからなどは、理由になりません。

住所や連絡先を調べて話し合いによる相続人全員の合意が必要です。

気ごころの知れた兄弟で合意していたことでも、合意内容を書面に取りまとめていないことがあります。

兄弟の口頭の合意内容について、兄弟の配偶者や兄弟の子どもは何も知らないことが多いでしょう。

遺産分割協議書に押印していない場合、合意があったと言っても納得してもらうことは難しいでしょう。

そうなると話し合いによる合意は、やり直しになります。

②相続人が認知症などで判断ができなくなる

相続財産の分け方は、相続人全員の話し合いによる合意で決める必要があります。

相続が発生したときは元気だったとしても、長期間放置しているうちに高齢になります。

相続人が高齢になると、認知症などを発症するリスクが高くなります。

認知症になると、物事のメリットデメリットを充分に判断することができなくなります。

物事のメリットデメリットを充分に判断することができない状態では、相続財産の分け方の合意はできません。

認知症など自分で判断することができなくなった人のために、サポートする人を家庭裁判所に選んでもらう必要があります。

認知症の人をサポートする人を成年後見人と言います。

成年後見人が本人の代わりに、相続財産の分け方の合意をします。

成年後見人は本人の利益のために働きますから、本人の法定相続分を主張します。

家族の事情を考慮した柔軟な話し合いは難しくなります。

相続登記のために成年後見人を選んでもらったとしても、相続手続完了後、やめることはできません。

③相続人が行方不明などで連絡が取れなくなる

相続財産の分け方は、相続人全員の話し合いによる合意で決める必要があります。

行方不明だから、連絡を取れないからなどは、話し合いから除外していい理由になりません。

行方不明の人がいる場合、代わりに話し合いをする人を家庭裁判所に選んでもらう必要があります。

代わりに話し合いをする人を不在者財産管理人と言います。

不在者財産管理人が本人の代わりに、相続財産の分け方の合意をします。

不在者財産管理人が相続財産の分け方の合意をする場合、家庭裁判所の許可が必要です。

家庭裁判所は、本人の法定相続分が確保されていないと許可しません。

家族の事情を考慮した柔軟な話し合いは難しくなります。

④相続人の気持ちが変わる

相続登記をしないまま放置すると、相続人の気持ちが変わるかもしれません。

せっかく相続財産の分け方について話し合いによる合意をしていても、長い期間の経過するうちに気持ちが変わることもあります。

周りの人からいろいろ聞いて気持ちが変わる人もいるし、経済状況が変わって考えを変える人もいます。

相続登記を放置している間に、相続人の間で別のトラブルが起きて話し合いができなくなることもあります。

3相続登記を放置すると不動産活用ができなくなる

不動産そのままでは相続人間で分けようがない場合や遠方で住む予定がない実家を相続した場合など、相続したもののすぐに不動産を売却したい場合もあるでしょう。

このような場合にも、相続登記は必要です。

所有権は、被相続人→相続人→買主と移動しているからです。

①売却などができない

相続登記をしていないと、通常、売却ができません。

賃貸として貸し出す場合も、不動産を担保として差し出す場合も、相続登記は必要です。

相続登記をしていない場合、自分で使う以外活用できません。

②建物の取壊し後、土地を売却できない

建物の取壊しをするにも、相続人全員の合意が必要になります。

建物の取壊しだけなら、相続登記は不要です。

相続人全員の合意があれば、建物滅失登記をすることができます。

建物取壊し後、土地を売却する場合、土地は相続登記が必要です。

③特定の相続人が自分の持分を売ってしまう

法定相続分で登記するのであれば、相続人は単独で登記ができます。

他の相続人が何も知らないところで、相続人全員の法定相続分で、相続登記ができてしまうのです。

法定相続分で相続登記をした後、不動産の持分を売却することができます。

あまり知られていませんが、持分を買い取る専門の業者もいます。

買い取り価格はおおむね時価の1~3割です。

経済的に困った相続人がいる場合、このような買取業者と不動産を共有することになります。

このような業者はビジネスですから、買い取った後、共有物分割請求などの権利主張をします。

④借金のある相続人の持分が差し押さえられる

債権者は債権の保全のため、債務者の財産を差し押さえることができます。

差押など強制執行の準備のため、相続登記を申請することができます。

差押などの強制執行をするためには、相続人名義である必要があるからです。

差押の後は、競売をして債権を回収します。

債権者は債務者の事情などお構いなしで登記しますから、相続人全員の話し合いによる合意がどうなったのか待つことはありません。

たとえ、相続人全員の話し合いで特定の相続人が相続することが合意されていても、登記されていなければ債権者は勝手に相続登記ができます。

相続登記をしていなければ、相続人全員の合意内容と違うから消して欲しいなどの文句を言えません。

4相続登記を放置すると手続費用が高くなる

相続登記には書類がたくさん必要になります。

役所から取り寄せる、戸籍や住民票などです。

長期間、相続登記を放置したことで相続人が死亡した場合、死亡した相続人の相続人を確定させる必要があります。

死亡した相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本が追加で必要になります。

単純に、集める戸籍謄本が増えるし、複雑になります。

また、戸籍や住民票は永年保管ではありません。

役所は書類の保存期間を決めていて、古い書類から順に廃棄します。

必要な書類が廃棄されていると取得できなくなってしまうおそれがあります。

取得できなくなったからと言って、相続登記ができなくなるということはありませんが、その代わりの書類を用意するのに余計な手間がかかります。

5相続登記を司法書士に依頼するメリット

大切な家族を失ったら、大きな悲しみに包まれます。

やらなければいけないと分かっていても、気力がわかない方も多いです。

相続手続きは一生のうち何度も経験するものではないため、だれにとっても不慣れで手際よくできるものではありません。

相続登記は、相続手続の中でも手間がかかる難しい手続です。

不動産は重要な財産であることが多いので、法務局は厳重な審査をします。

一般の人にとって些細なことと思えるようなことでやり直しになります。

売却する予定がないのなら、先延ばししたい誘惑にかられるかもしれません。

実は、相続手続をスムーズにするコツがあります。

それは、はじめに相続登記をすることです。

相続登記は難しい手間がかかる手続なので、司法書士などの専門家に依頼するでしょう。

相続手続で挫折しがちなのは、戸籍謄本などの書類収集や遺産分割協議書の作成です。

書類収集や遺産分割協議書の作成は、司法書士に依頼することができます。

司法書士が戸籍謄本や遺産分割協議書を準備したうえに、法務局の厳重な審査をします。

法務局の審査が通った戸籍謄本や遺産分割協議書だから、銀行などの相続手続先で指摘があることはありません。

銀行などの独自書類の内容などに指摘があるとしても、簡単に済むことがほとんどでしょう。

相続手続をスムーズに進めたい方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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