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1任意後見監督人は必ず存在
任意後見は、任意後見監督人が選任されてからスタートします。
日常生活を監視されるイメージから、任意後見監督人に不安を感じる人もいるかもしれません。
任意後見監督人をなしにしたいと言う方もたくさんいます。
成年後見(法定後見)制度では、家庭裁判所の判断で成年後見監督人が置かれることも置かれないこともあります。
任意後見制度では、任意後見監督人は必ず置かれます。
任意後見制度では、任意後見監督人をなしにするわけにはいかないのです。
家庭裁判所が任意後見監督人を選任することが、任意後見の始まりだからです。
2任意後見監督人とは
任意後見制度は、あらかじめ契約で「必要になったら後見人になってください」とお願いしておく制度です。
成年後見(法定後見)制度では、家庭裁判所の判断で成年後見人が選ばれます。
本人や家族の知らない専門家が選ばれるのがおよそ80%です。
任意後見契約をする人の多くは、家族に後見人になってもらいたい人です。
任意後見監督人は、任意後見制度を利用する際、任意後見人を監督する人です。
任意後見人が不正をしないかきちんと監督するのが仕事です。
任意後見人が不正をしないかきちんと監督すると聞くと、反発を感じて任意後見監督人をなしにしたいと思うかもしれません。
任意後見人は、多くの場合、本人の家族です。
本人の家族が法律の専門家であることはあまりないでしょう。
客観的には不正と判断されることを知識不足によってやってしまうことがあります。
後見事務の範囲を逸脱してしまう可能性があります。
任意後見契約から逸脱していても、任意後見人が気付かないかもしれません。
法律の知識がないから、不安になりながら任意後見事務をすることになります。
後見事務に不安がある場合、家庭裁判所に相談することは大切です。
家庭裁判所はあまり身近な役所ではないため、気軽に相談するのは難しいでしょう。
任意後見監督人は、任意後見人の相談相手です。
任意後見人にとって、家庭裁判所より任意後見監督人の方が話しやすいでしょう。
任意後見監督人は、任意後見人から相談に応じることで、任意後見人が不正なく事務を行うように監督したと言えるのです。
任意後見監督人は、任意後見人を見張る人というよりはサポートする人です。
任意後見監督人は、任意後見人が任意後見契約どおり適切に事務を行うようにサポートし、家庭裁判所に報告します。
家庭裁判所は任意後見監督人の監督をしています。
3任意後見監督人の職務
①任意後見人の監督
任意後見人は、本人の財産管理をします。
任意後見監督人は、任意後見人が本人の財産を適切に管理しているか監督します。
任意後見人に判断が難しいことの相談を受けます。
任意後見監督人がする監督とは、任意後見人を見張りいうよりはサポートです。
②家庭裁判所へ報告
任意後見人は、任意後見監督人に監督されます。
任意後見監督人は、家庭裁判所に監督されます。
家庭裁判所は任意後見監督人を監督することで、任意後見人を監督します。
任意後見監督人は、家庭裁判所に対して後見事務を報告します。
任意後見監督人が家庭裁判所に報告できるように、任意後見人は任意後見監督人に報告をしなければなりません。
③任意後見人の代理をする
任意後見人が事故などで必要な職務ができない場合があります。
任意後見監督人は、任意後見人の代理で必要な処分をします。
任意後見人と本人で、利益相反になる場合があります。
利益相反とは、一方がソンすると他方がトクする関係のことです。
本人がソンすると任意後見人がトクする関係になる場合、任意後見人は本人を代理することができません。
典型的には、遺産分割協議です。
本人と任意後見人が相続人になる場合、利益相反になります。
利益相反になるから、遺産分割協議ができません。
任意後見監督人が、本人を代理して遺産分割協議をします。
別途、特別代理人を選任する必要はありません。
4任意後見監督人は原則専門家で報酬1~2万円程度
任意後見監督人を家庭裁判所に選んでもらうことで、任意後見はスタートします。
任意後見監督人の候補者を立てることはできますが、家庭裁判所は候補者を選ぶことも候補者を選ばないこともできます。
任意後見監督人に選ばれるのは、原則として、家族以外の専門家です。
家庭裁判所が選んだ任意後見監督人に不服を言うことはできません。
候補者と別の人であっても任意後見監督人選任の申立てを取り下げることはできません。
任意後見監督人になれないのは次の人です。
①任意後見受任者や任意後見人の配偶者
②任意後見受任者や任意後見人の直系血族
③任意後見受任者や任意後見人の兄弟姉妹
任意後見受任者や任意後見人の家族は、任意後見監督人にふさわしくないという意味です。
任意後見監督人は任意後見人が不正なく事務を行うように監督する人です。
任意後見人が不正をした場合、指摘して不正をたださなければなりません。
任意後見監督人が家族の場合、任意後見人の不正を見つけてもわざと見逃すかもしれません。
多くの場合で任意後見人が本人の家族だから、任意後見監督人は専門家がふさわしいといえます。
任意後見受任者や任意後見人の家族から利益を得ている人もふさわしくありません。
任意後見受任者や任意後見人の家族から利益を得ている場合、利益を失うことをおそれて不正をわざと見逃すかもしれないからです。
任意後見受任者や任意後見人の家族の顧問税理士などは、任意後見受任者や任意後見人の家族から報酬を得ている人です。
報酬を失うことをおそれて、適切な職務執行ができないおそれがあります。
たとえ、不正を見逃すようなことをしなかったとしても、客観的には適切な職務執行をしていないのではないかと疑われます。
任意後見人の財産管理方針に他の家族が賛同できない場合に、疑いがより強まります。
ふさわしくない任意後見監督人の存在が、家族のトラブルを大きくすることになります。
任意後見監督人の候補者を立てるときは、ふさわしい人物を推薦しましょう。
任意後見監督人が家族以外の専門家の場合、本人の財産から報酬を支払う必要があります。
任意後見人の報酬は任意後見契約の中で決めることができます。
任意後見人が家族の場合、無報酬のことも多いものです。
任意後見監督人の報酬は、家庭裁判所が任意後見契約の内容に応じて決定します。
管理財産の規模が5000万円までなら、おおむね1~2万円程度です。
5000万円超なら、おおむね2~3万円程度です。
5任意後見監督人選任の申立て
家庭裁判所が任意後見監督人を選任するためには、原則として本人の同意が必要です。
任意後見監督人を家庭裁判所に選んでもらうことで、任意後見はスタートするからです。
任意後見監督人選任の申立てをすることができるのは、次の人です。
①本人
②配偶者
③4親等内の親族
④任意後見受任者
任意後見監督人選任の申立先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄は、裁判所のホームページで調べることができます。
任意後見監督人選任の申立書に添付する書類は、次のとおりです。
①本人の戸籍謄本
②任意後見契約公正証書の写し
③本人の成年後見登記事項証明書
④診断書(家庭裁判所指定様式のもの)
⑤本人の財産状況の分かる資料
不動産があれば、登記事項証明書、固定資産評価証明書
預貯金であれば、通帳の写し、残高証明書
⑥任意後見監督人の候補者の住民票
⑦収支予定表
⑧事情説明書
任意後見監督人を選任する前に、任意後見人になる人に家庭裁判所の面談調査があります。
任意後見人が適切でない場合、法定後見の申立をするようにすすめられます。
6任意後見監督人は簡単に辞任解任できない
①任意後見監督人は正当理由があるときだけ辞任できる
任意後見監督人が辞任することができるのは、正当理由があると認められたときだけです。
任意後見監督人の職務が嫌になったからやめたいとか、仕事が忙しくなったからやめたいなどの理由は認められません。
正当な理由があって家庭裁判所に認められた場合のみ、辞任することができます。
正当な理由とは、多くは、任意後見監督人が重病で療養に専念したいとか、高齢になったので職務ができないなどです。
②任意後見監督人は正当理由があるときだけ家庭裁判所が解任できる
任意後見監督人は、正当理由があれば家庭裁判所が解任します。
任意後見人が解任するのではありません。
任意後見監督人と意見が合わないとか、任意後見監督人が気に入らないなどの理由では、正当理由があると認められません。
家庭裁判所に申立てをして、正当理由があると認められた場合、家庭裁判所が解任します。
申立てがなくても、家庭裁判所は職権で解任することができます。
任意後見監督人に不正な行為や著しい不行跡など重大な理由があるときだけ、解任が認められます。
7任意後見契約を司法書士に依頼するメリット
任意後見制度は、あらかじめ契約で「必要になったら後見人になってください」とお願いしておく制度です。
認知症が進んでから任意後見契約をすることはできません。
重度の認知症になった後は、成年後見(法定後見)をするしかなくなります。
成年後見(法定後見)では、家庭裁判所が成年後見人を決めます。
家族が成年後見人になれることも家族以外の専門家が選ばれることもあります。
任意後見契約では、本人の選んだ人に後見人になってもらうことができます。
家族以外の人が成年後見人になることが不安である人にとって、任意後見制度は有力な選択肢になるでしょう。
一方で、任意後見制度では、必ず任意後見監督人がいます。
監督という言葉の響きから、不安に思ったり反発を感じる人もいます。
任意後見人が不正などをしないように監督する人と説明されることが多いからでしょう。
せっかく家族が後見人になるのに、あれこれ外部の人が口を出すのかという気持ちになるのかもしれません。
任意後見監督人は任意後見人のサポート役も担っています。
家庭裁判所に相談するより、ちょっと聞きたいといった場合には頼りになることが多いでしょう。
任意後見契約は締結して終わりではありません。
本人が自分らしく生きるために、みんなでサポートする制度です。
任意後見制度の活用を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。