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1相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続の放棄は、被相続人ごとに判断できます。
例えば、父について相続放棄をするが、母について単純承認するでも差し支えありません。
相続の放棄は、相続人ごとに判断できます。
例えば、父の相続人ついて長男は相続放棄するが、長女は単純承認するでも差し支えありません。
2相続放棄のデメリット
①プラスの財産も相続できない
相続放棄をするとプラスの財産を相続できなくなります。
マイナスの財産だけ放棄したいといった希望はできません。
例えば、被相続人所有の家に住んでいる場合、住んでいる家であっても相続できなくなります。
住居を明け渡すことになりますから、大きなデメリットと言えます。
相続放棄をした後に、プラスの財産が見つかることがあります。
プラスの財産が見つかっても、相続放棄をした後は相続できません。
②相続放棄の撤回ができない
相続放棄をした後にプラスの財産が見つかることがあります。
プラスの財産が見つかっても、相続放棄をした後は相続できません。
相続放棄を撤回することはできません。
とりあえず相続放棄をしてプラスの財産が見つかったら、撤回するといったことはできません。
相続放棄をするとき、他の相続人から強迫をされていることやだまされている場合があります。
強迫をされていることやだまされている場合、相続放棄を取り消すことができます。
撤回はできないけど、取消はすることができます。
取消ができるのは、気づいてから6か月、相続放棄のときから10年以内です。
③次順位の人が相続人になる
相続放棄をすると相続人でなくなります。
例えば、相続人が配偶者と子どもである場合、子ども全員が相続放棄をしたら子どもはいないものとして扱われます。
子どもがいない場合、次順位の相続人は親などの直系尊属になります。
配偶者は常に相続人になりますから、配偶者と親などの直系尊属が相続人になります。
相続放棄した子どもに子どもがいても、子どもの子どもは相続人になりません。
子ども全員が相続放棄したら「配偶者が全財産相続できる」は誤解です。
相続人が配偶者と子どもである場合で、子ども全員が相続放棄をすることがあります。
子ども全員が相続放棄をした場合、配偶者と親などの直系尊属が相続人になります。
多額の借金があることを理由として相続放棄をした場合、債権者は相続放棄をした相続人には返済をしてもらうことができません。
債権者は、次順位の相続人に返済を請求することになります。
次順位の相続人は、債権者から借金の返済を求められて相続人になったことを知ることになります。
相続放棄をしたことを連絡する義務はありませんが、次順位の相続人が不満に思うかもしれません。
このような場合、借金があることを説明したうえで、自分の相続放棄が認められたら、このことを知らせてあげると親切でしょう。
次順位の人は先順位の人の相続放棄が認められるまで相続人ではありませんから、相続放棄をしたくても手続きできません。
先順位の人の相続放棄が認められたら、すぐ手続きできるように準備をしてもらうようにしましょう。
④相続財産を処分すると相続放棄が無効になる
すでに相続を単純承認してしまっている場合、相続放棄をすることはできません。
例えば、次のような行為をした場合、相続を単純承認してしまっていると判断されます。
(1)財産をすでに使っている
(2)相続財産の分け方について合意をしている
(3)経済的価値の高い形見分けを受け取っている
(4)被相続人あての請求を相続財産で支払っている
(5)被相続人の債権を取り立てて支払を受けた
(6)相続財産を隠したり、財産がないと偽った
⑤生命保険の保険金を受け取れるとき税金の面で不利になることがある
被相続人に生命保険が掛けられている場合、被相続人の死亡すれば生命保険の保険金が支払われます。
生命保険の保険金は相続財産ではなく、保険契約による受取人の固有の財産です。
だから、生命保険の受取人が相続放棄をした場合でも、生命保険の保険金を受け取ることができます。
生命保険の保険金は相続財産でないにもかかわらず、原則として、相続税の課税対象です。
生命保険の保険金について、相続人全体の非課税枠は 500万円×法定相続人の人数 です。
相続人全員の非課税枠を計算するときは、相続放棄した人も含めて計算します。
相続放棄した人は、相続人全員の非課税枠を計算するときは含めるのに、その人の相続税を計算するときには、500万円の非課税枠を使うことはできません。
500万円分非課税にできないので、その分だけ税金を余計に負担しなければなりません。
税金の専門家からは、相続放棄をすると税金がソンになるといって、相続放棄をしないように説得されることがあります。
税金について検討するのは重要ですが、税金のメリットだけで判断すると失敗します。
税金以外のメリット、デメリットも充分検討して、相続放棄をした方がいいか相続放棄をしない方がいいのか、総合的に判断しましょう。
3遺産分割協議で相続放棄はできない
相続放棄は、家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の届出をします。
家庭裁判所に対して、相続放棄をしたい旨の届出をしない場合、相続放棄はできません。
被相続人が生前、相続人になる予定の人と相続放棄をすると約束している場合があります。
相続放棄をすると約束しても、意味はありません。
家庭裁判所に届出をしていないからです。
相続人間で相続放棄をすると念書を書いている場合があります。
相続放棄をすると念書を書いても、無効です。
家庭裁判所が関与していないからです。
父母が離婚する際に、子どもが相続放棄をすると誓約書を渡している場合があります。
子どもが相続放棄をすると誓約書を書いても、子どもには関係ない話です。
家庭裁判所に手続をしていないからです。
被相続人の債権者に相続放棄をすると申し入れをしている場合があります。
債権者に申し入れをするだけでは、何の価値もありません。
家庭裁判所が相続放棄を認めていないからです。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する届出です。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
つまり、家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。
実は、相続放棄はその相続でチャンスは実質的には1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
司法書士であれば、家庭裁判所に認めてもらえるポイントを承知していますから、認めてもらえやすい書類を作成することができます。
相続放棄をしたい旨の届出には戸籍や住民票が必要になります。
お仕事や家事、通院などでお忙しい人には平日の昼間に役所にお出かけになって準備するのは負担が大きいものです。
戸籍や住民票は郵便による取り寄せもできますが、書類の不備などによる問い合わせはやはり役所の業務時間中の対応が必要になりますから、やはり負担は軽いとは言えません。
このような戸籍や住民票の取り寄せも司法書士は代行します。
3か月の期間内に手続きするのは思ったよりハードルが高いものです。
相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に相談しましょう。