配偶者居住権を遺贈するため遺言書作成

1配偶者居住権で自宅に住み続ける条件

条件①配偶者であること

配偶者居住権とは、被相続人が所有していた家に住んでいた配偶者が一定期間無条件かつ無償で住み続けることができる権利です。

相続が発生してから配偶者が住む場所を失うことがないように、保護するために作られた権利です。

配偶者居住権を取得する配偶者は、法律上の配偶者のみです。

事実婚配偶者や内縁の配偶者は、配偶者居住権を取得することはできません。

法律上の配偶者でも、相続廃除された人や相続欠格になった人は配偶者居住権を取得することができません。

相続廃除された人や相続欠格になった人は、保護する必要がないからです。

配偶者居住権を取得する条件の1つ目は、法律上の配偶者であることです。

条件②被相続人の所有していた建物であること

配偶者居住権を設定する建物は、被相続人の所有していた建物でなければなりません。

被相続人の単独所有であるか、被相続人と配偶者の共有の場合のみ、配偶者居住権の対象にすることができます。

被相続人と配偶者以外の人と共有建物の場合、配偶者居住権は成立しません。

自宅が借家の場合、配偶者居住権は取得できません。

配偶者居住権を取得する条件の2つ目は、被相続人の所有していた建物であることです。

条件③相続開始時に無償で居住していたこと

配偶者居住権を設定するためには、配偶者が相続開始時に無償で居住していた事が必要です。

居住していたとは、生活の本拠にしていたことを指します。

自宅以外の別荘は、配偶者居住権の対象にはなりません。

生活の本拠とは、言えないからです。

配偶者が介護施設などに入所している場合、生活の本拠はその介護施設と言えるでしょう。

入院やショートステイなどで一時的に自宅を離れていたに過ぎない場合、自宅が生活の本拠と言えます。

相続が発生した時に生活の本拠の場合、配偶者居住権の対象にすることができます。

配偶者居住権を取得する条件の3つ目は、配偶者が相続開始時に無償で居住していたことです。

条件④配偶者居住権の設定をしたこと

配偶者短期居住権と違い、配偶者居住権は設定が必要です。

配偶者居住権は、要件を満たしたら自動的に権利があるというものではありません。

配偶者居住権を設定する方法は、次の4つです。

(1)遺贈

(2)死因贈与

(3)遺産分割協議

(4)遺産分割調停

上記のうち遺贈と死因贈与は、被相続人が生前に対策することができます。

相続人間のトラブル防止の観点から、生前に対策することがおすすめです。

配偶者居住権を取得する条件の4つ目は、配偶者居住権の設定をしたことです。

2配偶者居住権を遺贈するため遺言書作成

①配偶者居住権を設定するときの遺言書の書き方

記載例

遺言者△△は次のとおり、遺言をする。

1遺言者は、遺言者の所有する次の建物の配偶者居住権を遺言者の配偶者〇〇に遺贈する。

所在    名古屋市中区〇〇丁目〇〇番地〇〇

家屋番号 〇番〇

種類    居宅

構造    木造瓦葺

床面積  〇〇・〇〇平方メートル

2遺言者は、遺言者の所有する次の建物の負担付所有権を遺言者の長男◇◇に相続させる。

所在    名古屋市中区〇〇丁目〇〇番地〇〇

家屋番号 〇番〇

種類    居宅

構造    木造瓦葺

床面積  〇〇・〇〇平方メートル

3遺言者は、本遺言の遺言執行者として、□□を指定する。

   令和〇年〇月〇日

名古屋市中区〇〇丁目〇〇番地〇

  遺言者 △△  印

②遺言書には遺贈すると書く

配偶者居住権は、遺贈によって設定することができます。

遺贈とは、遺言書で相続人や相続人以外の人に財産を受け継いでもらうことです。

法律上の配偶者は、必ず、相続人になります。

「相続人◇◇に◇◇を相続させる」

相続人に財産や権利を受け継いでもらう場合、上記の書き方が一般的です。

配偶者居住権について書く場合、「配偶者〇〇に配偶者居住権を相続させる」と書いてしまいそうです。

「配偶者〇〇に建物〇〇の配偶者居住権を遺贈する」と書きます。

配偶者居住権は、法律上、遺贈されたとき取得すると決められているからです。

③「配偶者居住権を相続させる」でも登記ができる

遺言書の記載が「配偶者〇〇に配偶者居住権を相続させる」であった場合、遺言は無効にはなりません。

「配偶者〇〇に配偶者居住権を相続させる」の記載は、特段の事情がない限り、遺贈の趣旨である考えられます。

相続させると書いた遺言書で、配偶者居住権の設定登記を申請することができます。

遺言書の書き方は、厳格なルールがあります。

実際に遺言書を作成するときは、専門家のサポートを受ける方がいいでしょう。

確実で紛失等の心配のない公正証書遺言がおすすめです。

3配偶者居住権を設定するメリット

メリット①配偶者が自宅に住み続けることができる

相続財産の大部分が自宅不動産であるケースは、少なくありません。

相続人間でトラブルが起きると、自宅を売却して遺産分割をすることになるでしょう。

遺言書で配偶者居住権を遺贈しておくと、引き続き自宅で住み続けることができます。

メリット②金融資産も確保できる

配偶者が自宅の所有権を相続する場合、預貯金などの金融資産を受け継ぐことが難しくなります。

配偶者居住権を設定した場合、自宅は配偶者居住権と負担付所有権に分けられます。

配偶者居住権は、自宅そのものよりも評価額が低くなります。

配偶者が預貯金などの金融資産をより多く受け継ぐことができます。

メリット③配偶者居住権は第三者に主張できる

配偶者居住権を設定した場合、配偶者居住権設定登記をすることができます。

配偶者居住権設定登記があれば、第三者にも配偶者居住権を主張できます。

例えば、負担付所有権を取得した相続人が建物を売却した場合、建物の買主は建物を使いたいと考えるでしょう。

建物の買主が配偶者に対して、建物の明渡を請求することが考えられます。

あらかじめ配偶者居住権設定登記がある場合、配偶者は建物の明渡請求を拒むことができます。

建物の明渡を拒むことができることは、配偶者居住権の登記がしてあることの重要な効果です。

4配偶者居住権のデメリット

デメリット①配偶者居住権は配偶者だけのもの

配偶者居住権は、財産的価値があります。

配偶者居住権は、だれかに譲渡することも売却することもできません。

配偶者居住権は配偶者だけのものだからです。

配偶者は、勝手に第三者に使用させることはできません。

負担付所有権者の許可を得ずに建物を賃貸した場合、配偶者居住権消滅請求がされるリスクがあります。

配偶者居住権消滅請求がされた場合、配偶者は自宅から追い出されてしまいます。

配偶者が介護施設などに入所して自宅に住むことがなくなっても、配偶者居住権は存続します。

配偶者居住権は、配偶者だけのものです。

デメリット②建物の売却が難しい

配偶者は、配偶者居住権を第三者に売却することはできません。

負担付所有権者は、法律上は、配偶者の許可なく建物を売却することができます。

配偶者居住権の設定登記がされている建物を買い取っても、配偶者に明渡請求ができません。

配偶者居住権の設定登記がある場合、配偶者は権利主張をすることができるからです。

買い取っても、使うことができない建物を買う人はほとんどいないでしょう。

配偶者が介護施設などに入所して自宅に住むことがなくなった場合でも、配偶者居住権は消滅しません。

負担付所有権者と協力して建物を売却する場合、まず、配偶者居住権を外す必要があります。

配偶者居住権は、第三者に売却や譲渡ができません。

配偶者が負担付所有権者に対して、配偶者居住権を放棄することになります。

配偶者居住権を放棄するためには、配偶者が物事のメリットデメリットを充分に判断できる必要があります。

配偶者が物事のメリットデメリットを充分に判断できる間しか、配偶者居住権を放棄することはできないという意味です。

配偶者が認知症になった場合、自分で配偶者居住権を放棄することはできません。

配偶者居住権を放棄したら、負担付所有権は負担のない所有権になります。

配偶者居住権は、財産的価値があります。

客観的に見ると、財産的価値が移転したと言えます。

財産的価値の移転に対しては、多くの場合、高額な贈与税が課されます。

配偶sh亜居住権を設定した場合、建物の売却が難しくなります。

デメリット③固定資産税などの負担がある

固定資産税は、原則として、所有者が納税義務者です。

配偶者居住権を取得した配偶者は、建物の必要費を負担する必要があります。

負担付所有権を取得した相続人は、配偶者に固定資産税などの必要費を請求することができます。

配偶者居住権者は、固定資産税を負担する必要があります。

デメリット④増改築をするために所有者の同意が必要

配偶者居住権は、建物に住む権利です。

住むために必要な修繕をする権利はありますが、増改築をする権利はありません。

修繕のレベルを超える増改築をするためには、負担付所有権者の同意が必要です。

5配偶者居住権の遺贈を司法書士に依頼するメリット

配偶者居住権は、期間を定めることもできますが、原則として、配偶者の死亡まで存続します。

配偶者が死亡したら、配偶者居住権は消滅します。

配偶者の保有していた財産的価値が消滅することから、配偶者が死亡したときの相続税を減らすことができる点に注目が集まっています。

デメリットについては、あまり考慮されていません。

配偶者居住権は、配偶者だけの権利です。

配偶者居住権の譲渡ができません。

配偶者居住権の設定された建物は、取引されることは通常考えられません。

配偶者が介護施設などに入所したために自宅に住むことがなくなっても、配偶者居住権は消滅しません。

配偶者が自宅に住まなくなったため、自宅を売却しようとする場合、配偶者居住権があるため買い手が見つかりません。

配偶者居住権を外すためには、配偶者が配偶者居住権を放棄する必要があります。

配偶者居住権を放棄するためには、物事のメリットデメリットを判断できる能力が必要です。

将来、自宅を売却する可能性があるのなら、配偶者居住権を設定するのは慎重に判断するべきでしょう。

配偶者居住権を設定するのなら、認知症対策はセットで考えることが重要です。

高齢化社会になって、多くの方は長生きになりました。

長生きになったことは、認知症になるリスクが高くなったということです。

認知症対策がとても重要になっています。

配偶者居住権は、遺言書を適切に書くことで遺贈することができます。

遺言書を書く前に、配偶者居住権を遺贈することが本当に適切なのかを考えなければなりません。

配偶者居住権を設定するのがいいのか、別の方法をとった方がいいか、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

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