遺留分の放棄

1遺留分の放棄とは

被相続人は、原則として、自分の財産をだれに受け継がせるかは自由に決めることができます。

とはいえ、財産は被相続人が1人で築いたものではなく、家族の協力があって築くことができたもののはずです。

被相続人の名義になっているからといって、まったく無制約の自由にすると今まで協力してきた家族に酷な結果となることもあります。

このため、被相続人に近い関係の相続人には相続財産に対して最低限の権利が認められています。

遺留分とは、相続財産に対して、認められる最低限の権利のことです。

遺言書などで遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求をすることができます。

遺留分を侵害した相続人に対して遺留分に相当する金銭を請求します。

遺留分の放棄は、相続財産に対して認められる最低限の権利を相続人自身の意思で放棄することです。

相続人自身の意思で、遺留分侵害額請求をしないという制度のことです。

被相続人からすでに充分な贈与を受けている場合や相続争いに巻き込まれたくない場合に遺留分放棄がされます。

遺留分の放棄は最低限の権利を放棄するだけです。

相続放棄とちがい、遺留分を放棄しても相続財産を相続する権利は失われません。

2生前の遺留分放棄の口約束や同意書・念書は無効

一部の相続人に全財産を相続させるような極端な遺言書があった場合、他の相続人の遺留分が侵害されることになります。

何も対策しないまま相続が発生した場合、遺留分を侵害された相続人とトラブルになるでしょう。

トラブルにならないようにするために、遺留分を放棄をさせたいと考えるかもしれません。

被相続人が相続人に対して「遺留分侵害額請求をするな」と命じるケースがあります。

「遺留分侵害額請求をするな」という被相続人の命令は、法律上無効です。

被相続人が相続人に対して「遺留分侵害額請求をしません」と約束させるケースがあります。

「遺留分侵害額請求をしません」という被相続人と相続人の口約束は、法律上無意味です。

被相続人が「遺留分侵害額請求をしません」と念書を書かせるケースがあります。

「遺留分侵害額請求をしません」という念書を書かせた場合、法律上意味はありません。

生前に「遺留分侵害額請求をしません」と他の相続人と合意書を作るケースがあります。

生前に「遺留分侵害額請求をしません」という合意書を作った場合、法律上何の価値もありません。

「遺留分侵害額請求をしません」と被相続人や他の相続人に覚書を書くケースがあります。

「遺留分侵害額請求をしません」という覚書を書いた場合、効力はありません。

遺留分の放棄は、相続人の意思で遺留分侵害額請求をしないという制度です。

被相続人の生前に遺留分を放棄するためには、家庭裁判所の許可が必要です。

家庭裁判所の許可がないのに遺留分の放棄はできません。

被相続人の生前は遺留分は自由に放棄できません。

家庭裁判所の許可なく遺留分を放棄できるとすると、被相続人や他の相続人の干渉を招くことになります。

相続が発生する前から、相続トラブルが発生することになるからです。

相続トラブルの激化を防ぐため、被相続人の生前は家庭裁判所の許可なく遺留分の放棄はできません。

だから、「遺留分侵害額請求をするな」という被相続人の命令は、法律上無効です。

「遺留分侵害額請求をしません」という被相続人と相続人の口約束は、法律上無意味です。

「遺留分侵害額請求をしません」という念書を書かせた場合、法律上意味はありません。

「遺留分侵害額請求をしません」という契約書を作った場合、法律上何の価値もありません。

「遺留分侵害額請求をしません」という申入書を差し入れた場合、効力はありません。

実印を押しても、印鑑証明書があっても無効です。

何の効果もないから、相続発生後に遺留分侵害額請求をされた場合、何の文句も言えません。

念書があるから、契約書があるから、申入書があるから、遺留分侵害額請求を拒むことはできません。

遺留分侵害額請求をしないのが、相続人の意思であるのかを公平に確認するために家庭裁判所の許可が必要になります。

3相続発生前の遺留分の放棄は家庭裁判所の許可が必要

相続が発生する前に遺留分を放棄するためには、家庭裁判所の許可が必要になります。

遺留分は一定の相続人に認められる最低限の権利だからです。

最低限の権利を失うのが遺留分の放棄です。

遺留分を放棄させられるものではなく、相続人の意思で放棄するものです。

法律の専門家でない自称専門家は、遺留分を放棄させれば相続トラブルのない円満な相続ができますなどと安易に説明しています。

無理矢理、気に入らない相続人の遺留分を放棄させることはできません。

家庭裁判所は遺留分の放棄が強要されたものでないか確認します。

遺留分の放棄の申立てができるのは、遺留分がある相続人です。

遺留分の放棄の申立てができるのは、被相続人の生存中です。

遺留分の放棄の申立ては、被相続人の住所地の家庭裁判所です。

家庭裁判所の管轄は、裁判所のホームページで調べることができます。

遺留分の放棄の申立書に添付する書類は、次のとおりです。

①被相続人の戸籍謄本

②申立人の戸籍謄本

③被相続人の財産目録

遺留分の放棄は、相続人の意思が重視されます。

気に入らない相続人の遺留分を放棄させる危険が大きいことから、相続人の意思だけでなく、合理的理由があるかも判断の対象になっています。

合理的理由とは、遺留分の放棄の申立てをする必要性や充分な理由があることです。

遺留分の放棄の申立てをする充分な理由とは、遺留分の放棄をするに見合う充分な代償を得ていることです。

多くの場合、充分な生前贈与を受けている場合や事業などに充分な出資をしてもらっている場合が該当します。

親の言いなりにならないからとか気に入った相続人に財産を受け継がせたいからなどは、認められないでしょう。

遺留分放棄の申立てが家庭裁判所で認められた場合、遺留分放棄が許可されたことが通知されます。

遺留分放棄の申立てが許可されたか却下になったかを、被相続人が確認したい場合もあるでしょう。

被相続人は、遺留分放棄許可証明書を発行してもらうことができます。

家庭裁判所で遺留分放棄が認められた後は、原則として、撤回はできません。

例外は、遺留分の放棄の原因になった事情に大きな変化があった場合や遺留分権利者の意思で遺留分放棄の申立てをした場合でなかった場合などです。

例外にあたる場合、家庭裁判所に遺留分の放棄の許可の取り消しの申立てをします。

家庭裁判所に許可を取り消してもらう必要があります。

4相続発生後の遺留分の放棄は自由にできる

相続が発生した後であれば、遺留分は自由に放棄することができます。

相続が発生した後は、相続権も遺留分も自分に帰属した具体的権利だからです。

具体的な自分の権利だから、家庭裁判所の許可は必要ありません。

遺留分侵害額請求権は、遺留分がある権利者からの請求が必要です。

遺留分を侵害されたとしても、遺留分侵害額請求をしないことができます。

遺留分侵害額請求をしない場合、遺留分を放棄したことと同じ効果になります。

遺留分侵害額請求権は、遺留分が侵害されたことを知ってから1年で時効になります。

それでも遺留分侵害額請求をされるかもしれないと不安になる相続人はいるでしょう。

「遺留分侵害額請求をしません」という念書を書いてあげた場合、安心するでしょう。

5遺言書の付言事項は単なるお願いに過ぎない

一部の相続人に全財産を相続させるような極端な遺言書があった場合、他の相続人の遺留分が侵害されることになります。

何も対策しないまま相続が発生した場合、遺留分を侵害された相続人とトラブルになるでしょう。

遺言書には、付言事項を書くことができます。

付言事項に「遺留分侵害額請求をしないように」と書けばトラブルにならないとすすめる自称専門家がいます。

確かに、何も書かないよりは書いた方が心情に訴えることができるでしょう。

付言事項には、法律上の効果はありません。

法律上は何の効果もないけれど、書かないよりは多少ましになる程度のものです。

付言事項に「遺留分侵害額請求をしないように」と書いてある場合、単なるお願いに過ぎません。

付言事項に「遺留分侵害額請求をしないように」と書いてあっても、遺留分権利者は遺留分侵害額請求ができます。

付言事項に「遺留分侵害額請求をしないように」と書いてあるから、遺留分侵害額請求を拒むことはできません。

付言事項には、財産の分け方を決めた理由と家族の円満を希望している気持ちを書くといいでしょう。

6遺言書作成を司法書士に依頼するメリット

被相続人は、原則として、自分の財産を誰に受け継がせるかは自由に決めることができます。

自由に決めることができるものの、完全に自由に決めることができるわけではありません。

兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分があるからです。

遺留分を侵害するような遺言書である場合、相続発生後に大きなトラブルになりかねません。

侵害された相続人は遺留分侵害額請求をすることができます。

自分の思い通りの遺産分割を実現させるために、遺留分を放棄させようと考えるかもしれません。

相続発生前の遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要です。

遺留分の放棄をさせれば、自分の思い通りの遺産分割を実現できると思えます。

書類さえ提出すれば、家庭裁判所がカンタンに許可をしてくれるわけではありません。

念書を書かかせても法律上意味はなく、かえってトラブルの火種になります。

遺留分を侵害するような遺言書である場合、遺言書自体が無効だと主張されるおそれがあります。

遺言書自体が無効だと主張される場合、多くは修復困難な家族のもめごとになるでしょう。

あえてトラブルになる遺言書に固執するより遺留分を侵害しない遺言書を作成した方が現実的です。

家族のトラブルを減らすためには、遺留分を侵害しない遺言書を作成する方が有効です。

自分の思い通りの遺産分割と家族の幸せを比べたときに、どちらがより重要か考えましょう。

家族を幸せにしたいと思って生涯をかけて築いた財産のはずです。

生涯をかけて築いた財産で、家族がトラブルになるのであれば本末転倒です。

家族の幸せを思って遺言書を作成したいと考えるのであれば司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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