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1取得時効には要件がある
相続登記をしないまま、先延ばしをしている例はたくさんあります。
相続手続は済んでいると思い込んだまま、放置して持ち主が死亡することもあります。
自分のものだと信じて使い続けた自宅なのに、登記を調べてみたら、祖父の名義のままだったという話も多々聞くことです。
他人のものでも自分のものと信じてずっと使い続ければ、自分のものになるはずと思う人も多いでしょう。
時効取得が認められた場合、他人のものでも自分のものになります。
自分のものだと信じて使い続けた自宅だから、時効取得できると考えるかもしれません。
時効取得するためには、要件があります。
要件を満たせば、時効取得することができます。
2時効取得するための要件
①所有の意思がある
単に、自分のために使っている、自分のために持っているだけでは不足です。
所有する意思をもって使っている、持っている必要があります。
借りているものを使っていても、所有する意思は認められません。
長期間借り続けていても、時効取得することはできません。
所有の意思は、使っている人が心の中で思っていることで決まるものではありません。
使うことの原因になった理由や持っている事情によって、外形的に客観的に決まります。
通常、売買の買主は所有する意思を持っています。
泥棒にも、所有の意思があります。
外形的に客観的に、自分のために使っている、自分のために持っているからです。
買ったものがだれのものでも、時効取得ができる可能性があります。
泥棒が盗んだものでも、時効取得ができる可能性があります。
他にも相続人がいることを知りながら使い続けている場合、所有の意思は認められません。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
相続財産を使い続けている場合、他の相続人のために管理していると考えられるからです。
他の相続人のために管理していても、所有の意思は認められません。
②公然かつ平穏
公然とは、こっそり使っていたり、隠し持っている場合でないという意味です。
平穏とは、暴行や脅迫によって、持っていたり、使っている場合ではないという意味です。
使っている場合や持っている場合、公然かつ平穏であると推定されます。
③他人の物
法律には、わざわざ「他人の物」と明示してあります。
他人の物と言っていますが、自分のものも含めて考えます。
他人の物でも、時効取得できます。
自分のものを時効取得できるのは、なおさらのことです。
時効制度は長い間、続いてきた平穏な事実を権利として認めようという制度です。
自分のものであっても、長い間に自分のものであるという証拠がなくなることがあります。
だれが所有者なのか分からないと、トラブルになることがあるでしょう。
長い間、平穏に使い続けた事実を権利として認めることで、救済しようとするものだからです。
④善意無過失
善意とは、自分のものと信じていたという意味です。
無過失とは、自分のものと信じていたことについて、落ち度がなかったという意味です。
自分のものと信じており、自分のものと信じることについて落ち度がない場合、10年で時効取得ができます。
自分のものと信じており、自分のものと信じることについて落ち度がないのは、最初の時点で判断します。
最初の時点で、自分のものと信じており、自分のものと信じることについて落ち度がなければ、10年で時効取得ができます。
途中で、自分のものでないのかもと疑うような事実を知ってしまっても、10年で時効取得ができます。
最初の時点で、他人のものと知っていたり、自分のものと信じることに落ち度がある場合でも、20年で時効取得ができます。
⑤時効を援用すること
時効が完成したら、所有者に「時効取得しました」と主張する必要があります。
3相続財産は時効取得ができない
①相続財産は相続人全員の共有財産
相続が発生したら、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決める必要があります。
相続人全員の合意がまとまるまで、相続人全員の共有財産です。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
②相続財産に所有の意思は認められない
時効取得の要件をすべて満たしたら、時効取得をすることができます。
重要なポイントは、所有の意思があることです。
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産です。
相続財産である実家に、一部の相続人が住み続けていることがあります。
相続財産である実家は、相続人全員の共有財産です。
相続人全員の財産を、使っているに過ぎません。
借りているものを使っているのと同様に、所有の意思は認められません。
使うことの原因になった理由や持っている事情によって、外形的に客観的に決まります。
所有の意思は、使っている人が心の中で思っていることで決まるものではありません。
相続財産は、客観的に外形的に相続人全員の共有財産です。
相続財産を使い続けても、所有の意思が認められません。
③所有の意思が認められないと時効取得はできない
時効取得の制度は、長い間、平穏に使い続けた事実を権利として認める制度です。
客観的に外形的に、所有の意思をもって使い続けることが重要です。
代々伝わる実家だからなどの理由は、所有の意思と無関係です。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
相続人全員の共有財産を使い続けても、所有の意思は認めれません。
所有の意思が認められないと、時効取得はできません。
④遺産分割協議が成立した後は所有の意思がある
相続財産の分け方は、相続人全員で合意で決める必要があります。
合意をせず実家を使い続けただけで、時効取得はできません。
父に相続が発生して登記簿を確認したところ、祖父の名義のままということがあります。
父が実家を使い続けただけで、時効取得をすることはできません。
祖父の相続のとき、相続人が遺産分割協議をしたでしょう。
遺産分割協議に基づいて、相続手続をしているでしょう。
すべての相続財産について手続をしているのに、実家だけ相続登記を忘れてしまうことがあります。
父が相続することについて、祖父の相続人全員が合意をしていたでしょう。
多くの場合、実家などの不動産は家族にとって重要な財産です。
祖父の相続人全員が合意をしなかったと考えるのは、不自然でしょう。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
相続人全員の合意があれば、口頭の合意でも有効です。
遺産分割協議が成立した後は、相続した人の財産です。
所有する意思をもって使っていると認められます。
長期間所有の意思をもって使っている場合、時効取得をすることができます。
4時効取得しても登記手続は必要
①~⑤の要件を満たして、時効取得したら所有権を得ることができます。
不動産を時効取得した場合、所有権の移転登記が必要になります。
所有権を時効取得しても、自動で登記されることはありません。
法務局は、時効取得したことが分からないからです。
時効取得による所有権移転登記を申請する場合、登記名義人と時効取得した所有者が協力して申請する必要があります。
登記名義人が死亡している場合、登記名義人の相続人全員の協力が必要です。
時効取得されて不動産の所有権を失う元所有者や元所有者の相続人が登記手続に協力してくれることは、まず考えられません。
登記手続に協力が得られない場合、裁判所に訴えを起こすことになります。
裁判所から、所有権移転登記手続をせよという判決を出してもらう必要があります。
所有権移転登記をせよという判決があれば、時効取得した所有者が単独で登記申請をすることができます。
5時効取得の登記はすみやかに
要件を満たせば、時効取得をすることができます。
時効取得で所有権を失う元所有者は、登記申請に協力してくれないことがほとんどです。
協力してくれないからと言って、登記申請をせずに先延ばしをすることはおすすめできません。
せっかく時効取得した権利を失ってしまうかもしれないからです。
時効取得をした後、所有権移転登記をしない間の登記名義人は、元所有者です。
登記名義があるから、元所有者は不動産を売買などで譲渡することができます。
元所有者から不動産を譲り受けた人は、すぐに所有権移転登記をするでしょう。
権利主張をするためには、登記が必要です。
時効取得したから自分のものだと主張するためには、登記をしておく必要があります。
登記申請は、時効取得する人と不動産を譲り受けた人の競争です。
登記申請は、早い者勝ちだからです。
不動産を譲り受けた人が先に登記をしたら、時効取得した人は権利主張をすることができません。
不動産は、譲り受けた人のものになります。
時効取得をしたら、すみやかに登記手続をすることが重要です。
6相続登記を司法書士に依頼するメリット
相続が発生すると、相続人は悲しむ暇もなく相続手続に追われます。
不動産を相続した場合、すぐに売却したいといった事情がなければ先延ばししがちです。
先延ばししているうちに、相続登記を忘れてしまいます。
相続登記したものと思い込んでしまうことが多くなります。
実際のところ、何代も前の名義のまま放置されている例はよく見かけます。
何十年も住み続けた自宅なのに、自分のものでないを知るとショックを受けます。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決める必要があります。
何十年も住み続けたから、自分のものだと主張したくなるでしょう。
何十年も住み続けた自宅であっても、相続人全員の合意は欠かせません。
長い間経過していると、相続人が死亡することがあります。
相続人の相続人と話し合いが必要になるかもしれません。
関係が薄い相続人かいると、疎遠になっているでしょう。
疎遠な相続人がいると、分け方の合意は難しくなりがちです。
時効取得を持ち出してくること自体、トラブルは始まっています。
日常会話の中で、時効という言葉は軽く使われがちです。
法律上の時効は、考えるよりハードルが高く、認められるのが難しいものです。
きちんと相続登記をしておけば、家族のトラブルにならないことがほとんどでしょう。
相続が発生した後、すみやかに相続登記を済ませましょう。
スムーズに相続登記を完了させたい方は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。