このページの目次
1生前に相続放棄はできない
①相続発生後3か月以内に相続放棄
相続が発生したら、相続人は相続を単純承認するか相続放棄するか選択することができます。
相続放棄を希望する場合、家庭裁判所で相続放棄の申立てをします。
相続放棄の申立ては、相続発生後3か月以内の制限があります。
相続発生前に、相続放棄の手続をすることはできません。
家庭裁判所に持ち込んでも、受け取ってもらえません。
郵便で送っても、受け付けてもらえません。
生前に、相続放棄をすることはできません。
②生前の念書で相続放棄はできない
被相続人が相続人に対して「相続放棄をしろ」と命じるケースがあります。
「相続放棄をしろ」という被相続人の命令は、法律上無効です。
被相続人が相続人に対して「相続放棄をします」と約束させるケースがあります。
被相続人と相続人の間で「相続放棄をします」と口約束をしても、法律上無意味です。
被相続人が「相続放棄をします」と念書を書かせるケースがあります。
「相続放棄をします」と念書を書かせた場合、法律上意味はありません。
相続放棄は、家庭裁判所の手続だからです。
家庭裁判所で相続放棄を認める決定がされない限り、相続放棄はできません。
生前の念書で、相続放棄はできません。
③子ども全員による相続放棄契約は無効
被相続人が元気なうちに、相続人になる予定の人の間で将来のことを話し合うことがあるでしょう。
一部の相続人が「相続放棄をします」と、約束することがあります。
相続人になる予定の人の間で「相続放棄をします」と約束しても、無効です。
相続人になる予定の人全員で、相続放棄契約書を作成することがあります。
相続放棄契約書を締結して実印を押しても、効力はありません。
相続放棄は、家庭裁判所の手続だからです。
家庭裁判所で手続せずに、相続放棄は認められません。
子ども全員による相続放棄契約は、無効です。
④父母の合意で相続放棄はできない
父母が離婚するときなどに、子どもは「相続放棄をします」と合意をすることがあります。
父母の話し合いで「相続放棄をします」と合意をしても、意味はありません。
相続放棄は、家庭裁判所の手続だからです。
家庭裁判所で相続放棄を認める決定がされない限り、相続放棄はできません。
父母の合意で、相続放棄はできません。
⑤相続放棄の公正証書は作成できない
公正証書とは、公証人が作成する公文書です。
公証人は、法律の専門家です。
公正証書は、公証人が本人確認したうえで本人の意思確認をして作成します。
公証人が関与しない私文書とちがい、高い信頼性があります。
相続放棄は、家庭裁判所で手続をする必要があります。
家庭裁判所の手続なしで、相続放棄をすることはできません。
公証人は、法律上無効の文書を作成することはできません。
相続放棄の公正証書を作成することはできません。
⑥生前に相続放棄ができない理由
理由(1)相続人ではないから
相続が発生したら、一定の範囲の家族が相続人になります。
相続が発生する前は、まだ相続人ではありません。
相続放棄ができるのは、相続人のみです。
相続人でないから、生前に相続放棄をすることはできません。
理由(2)判断材料が不足しているから
相続が発生したら、被相続人の財産は相続財産になります。
相続が発生前は、相続財産の内容や評価額は不明確です。
相続財産の内容を確認できないのに、相続放棄をするか判断できないでしょう。
判断材料が不足しているから、生前に相続放棄をすることはできません。
理由(3)相続放棄の強制を回避するため
家族のさまざまな事情から、相続放棄を約束させるケースは少なくありません。
生前に相続放棄を認めると、相続放棄を強制されるおそれがあります。
相続放棄の強制を回避するため、生前に相続放棄をすることはできません。
2相続放棄をしてもらいたいときに被相続人ができること
①遺言書を作成しても遺留分侵害額請求
一部の相続人に相続放棄をしてもらいたい場合、遺言書の作成がイメージされるでしょう。
遺言書を作成して、他の相続人に相続させると書くことが考えられます。
遺言書を作成するだけで、相続人の遺留分を奪うことはできません。
遺留分とは、相続人に認められた最低限の権利です。
配分された財産が遺留分に満たない場合、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められます。
遺言書を作成しても、遺留分侵害額請求をすることができます。
②生前贈与に遺留分侵害額請求
一部の相続人に相続させたくない場合、他の相続人に生前贈与をすることが考えられます。
多額の生前贈与をすると、わずかな財産しか引き継ぐことができなくなります。
一部の相続人にだけ生前贈与をした場合、特別受益になります。
特別受益とは、一部の相続人だけが受けた特別な利益です。
特別受益があるのに考慮せず、相続財産を分けるのは不公平でしょう。
特別受益は相続財産に算入して、遺産分割をします。
特別受益は相続財産に算入して遺産分割をすることを特別受益の持戻しと言います。
被相続人の意思で、特別受益の持戻しを免除することができます。
配分された財産が遺留分に満たない場合、遺留分侵害額請求をすることができます。
特別受益の持戻しを免除しても、遺留分侵害額請求をすることができます。
被相続人の意思だけで、遺留分を奪うことができるのは不当だからです。
生前贈与に対して、遺留分侵害額請求をすることができます。
③遺留分放棄は強制できない
遺留分は、相続人に認められた最低限の権利です。
相続人の意思で、生前に遺留分を放棄することができます。
被相続人が相続人に遺留分放棄を強制することはできません。
遺留分放棄をするためには、家庭裁判所の許可が必要です。
家庭裁判所は遺留分放棄の許可について、次の点を審査します。
・放棄する人の自由意思に基づくこと
・遺留分放棄の理由に合理性や必要性があること
・遺留分放棄に見合う充分な対価を得ていること
家庭裁判所は、非常に厳格な基準で審査します。
遺留分は、相続人の最低限の権利だからです。
遺留分放棄は、被相続人が強制できません。
④相続人廃除の申立て
相続人廃除とは、相続人の資格を奪う手続です。
相続人の資格を奪うとは、実質的には遺留分を奪うことです。
例えば、被相続人を虐待した相続人は相続人としてふさわしくないでしょう。
家庭裁判所に相続人廃除の申立てをして、家庭裁判所が判断します。
被相続人が生前に申立てをする他に、遺言書で廃除することができます。
遺言書で廃除するときも、家庭裁判所に申立てをして家庭裁判所が判断します。
相続人廃除が認められるのは、次の理由があるときです。
・被相続人対して虐待をしたとき
・被相続人対して重大な侮辱をしたとき
・その他著しい非行があったとき
家庭裁判所は、客観的証拠によって判断します。
単なる親子げんか程度で、相続人廃除は認められません。
いっときの激情で手が出ても、相続人廃除は認められません。
気に入らない相続人だから廃除したいなど、軽い理由で認められる制度ではありません。
家庭裁判所は、非常に厳格な基準で審査します。
3相続放棄をしたい相続人ができること
①遺言書があっても借金の請求
被相続人が莫大な借金を抱えている場合、借金を引き継いでしまうことが心配になるでしょう。
被相続人の生前に、相続放棄をすることはできません。
遺言書を作成して、だれに財産を引き継ぐか決めることができます。
被相続人に依頼して、他の相続人に相続させるよう遺言書を作成してもらうことが考えられます。
プラスの財産とマイナスの財産をすべて、相続人〇〇〇〇に相続させる。
上記のような遺言書があっても、意味がありません。
債権者は、相続人全員に法定相続分で借金の返済を求めることができるからです。
遺言書があるから、借金の返済をしたくないと文句を言うことはできません。
遺言書を書いてもらっても、借金の返済を請求されます。
②生前に遺留分を放棄しても相続人
被相続人の生前に、遺留分放棄をすることができます。
遺留分放棄と相続放棄は、まったく別の効果があるまったく別の制度です。
遺留分放棄をしても、相続放棄にはなりません。
遺留分放棄をしても、相続人です。
相続発生後に、財産を分けて欲しいと言うことができます。
相続放棄を希望する場合、あらためて相続発生後に家庭裁判所に手続をします。
生前に遺留分放棄をしていなくても、相続発生後に相続放棄をすることができます。
生前に遺留分を放棄しても、相続人です。
③債務整理で債務を減らす
債務整理とは、借金問題を解決する方法です。
被相続人に借金を解決するように、働きかけてみるといいでしょう。
債務整理には、次の3種類があります。
(1)任意整理
それぞれの債権者と直接交渉して、借金の減額や返済猶予をしてもらう手続です。
(2)個人再生
裁判所の手続で、借金を減額してもらって残金を3年程度で返済する手続です。
(3)自己破産
財産をすべて処分して債権者に分配し、残った借金の返済を免除してもらう手続です。
4相続放棄の手続の流れ
手順①相続財産調査
相続を単純承認するか相続放棄をするか判断するため、相続財産調査をします。
どのような財産状況でも相続放棄をする場合、相続財産調査は不要です。
手順1つ目は、相続財産調査です。
手順②必要書類の準備
相続放棄の申立ての必要書類は、次のとおりです。
(1)被相続人の戸籍謄本
(2)被相続人の住民票または戸籍の附票
(3)相続放棄する人の戸籍謄本(3か月以内のもの)
(4)収入印紙800円分
(5)裁判所が手続で使う郵便切手
裁判所が手続で使う郵便切手は、裁判所ごとに金額や枚数が決められています。
手順2つ目は、必要書類の準備です。
手順③相続放棄申述書の作成
相続放棄申述書に、必要事項を記載します。
相続放棄申述書は、相続放棄をする人の押印が必要です。
押印は、認印で差し支えありません。
手順3つは、相続放棄申述書の作成です。
手順④家庭裁判所へ提出
相続放棄申述書の提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄は、裁判所のホームページで確認することができます。
家庭裁判所へ出向いて提出する場合、受付時間に制限があることがあります。
相続放棄申述書は、郵送で提出することができます。
普通郵便でも提出できますが、記録が残る郵便が安心です。
手順4つ目は、家庭裁判所へ提出です。
手順⑤相続放棄照会書に回答
相続放棄の申立てをすると、2週間ほどで家庭裁判所から相続放棄照会書が届きます。
相続放棄照会書とは、家庭裁判所から届く相続放棄についての意思確認です。
相続放棄は影響の大きい手続なので、間違いがないように慎重に確認します。
正直に回答して、返送します。
手順5つ目は、相続放棄照会書に回答です。
手順⑥相続放棄申述受理通知書の受領
回答に問題がなければ、家庭裁判所から審査結果が通知されます。
相続放棄申述受理通知書とは、相続放棄が認められた通知書です。
手順6つ目は、相続放棄申述受理通知書の受領です。
手順⑦他の相続人に通知
相続放棄の審査結果は、申立てをした人だけに通知します。
他の相続人に対して、積極的に通知しません。
相続放棄をしても他の相続人に通知する義務はありませんが、通知してあげると親切でしょう。
手順7つ目は、他の相続人に通知です。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する申立てです。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
家庭裁判所で認められないと、相続放棄のメリットは受けらません。
相続放棄はその相続でチャンスは実質的には1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできます。
高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます
一挙に、ハードルが上がると言ってよいでしょう。
3か月以内に必要書類を揃えて手続をするのは、想像以上にハードルが高いものです。
相続放棄を考えている方は、すみやかに司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。