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1相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続の放棄は被相続人ごとに判断できますから、例えば、父について相続放棄をするが、母について単純承認するでも差し支えありません。
相続の放棄は相続人ごとに判断しますから、例えば、父の相続ついて長男は相続放棄するが、長女は単純承認するでも差し支えありません。
2相続放棄は家庭裁判所で手続
①相続放棄の管轄は被相続人の最後の住所地
相続放棄は、本来、家庭裁判所に対する手続です。
家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の申立てをします。
申立てをする先の家庭裁判所は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所です。
相続が開始した地とは、被相続人の最後の住所地です。
裁判所のホームページで管轄する家庭裁判所を調べることができます。
被相続人の最後の住所地が分からない場合、被相続人の除票や戸籍の附票を取得すると判明します。
被相続人の除票は、被相続人が住民票を置いていた市区町村役場に請求します。
被相続人の戸籍の附票は、被相続人の本籍地の市区町村役場に請求します。
被相続人に関する情報が全く分からない場合、自分の戸籍謄本を取得して順にたどっていきます。
被相続人の戸籍までたどり着いたら、被相続人の本籍地が判明します。
除票や戸籍の附票は、永年保管ではありません。
今でこそ保存期間は150年ですが、令和元年までは5年でした。
保存期間が経過した書類は、順次廃棄されます。
被相続人の除票や戸籍の附票を取得できない場合、死亡届の記載事項証明書で住所を調べることができます。
古い死亡届は、法務局が保管しています。
法務局は、市区町村役場から送付を受けた年度の翌年から27年間保管しています。
戸籍の附票や住民票が廃棄された後でも、死亡届の記載事項証明書を取得できることがあります。
相続放棄をしたい旨の申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
②相続放棄の期限は知ってから3か月
相続放棄は、家庭裁判所に申立てをする必要があります。
申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
「相続があったことを知ってから」とは、被相続人が死亡して相続が発生し、その人が相続人であることを知って、かつ、相続財産を相続することを知ってから、と考えられています。
被相続人が死亡してから3か月以内ではなく、相続財産を相続することを知ってから3か月以内です。
相続放棄ができる期間は3か月を知らないまま3か月経過した場合、相続放棄は認められません。
法律の定めを知らなくても、3か月過ぎてしまえば、単純承認になります。
単純承認になったら、相続放棄は認められません。
③相続放棄の期限は延長してもらえる
相続放棄の申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
被相続人の財産状況を詳しく知らない場合、3か月はあっという間です。
相続放棄をするべきか単純承認をするべきか判断するために時間がかかる場合があります。
相続放棄をするべきか単純承認をするべきか判断するための資料を集めるため、相続放棄の期間3か月を延長してもらうことができます。
相続放棄の期間3か月を延長してもらうことを相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てと言います。
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てを受け付けた場合、家庭裁判所が期間延長を認めるか判断します。
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てには、期間内に相続放棄をすべきか単純承認すべきが判断ができない具体的理由や延長が必要な期間を記載します。
判断ができない具体的理由を根拠づける資料を添付して、説得力を持たせるといいでしょう。
期間延長の必要性や理由が妥当なものであると家庭裁判所に納得してもらうことが重要です。
家庭裁判所で期間延長が認められた場合、原則として3か月延長されます。
④相続放棄は郵送で手続できる
相続放棄の申立てをする先の家庭裁判所は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所です。
相続が開始した地とは、被相続人の最後の住所地です。
相続人の住所地を管轄する家庭裁判所ではありません。
被相続人の最後の住所地が相続人の住所地からはるか遠方であることがあります。
相続放棄申述書は、家庭裁判所に出向いて提出することができるし郵送で提出することができます。
郵送する場合は、期限に間に合うように余裕を持って提出しましょう。
相続放棄の申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
普通郵便で送った場合、家庭裁判所に届いたか分かりません。
郵便が迷子になると、探せなくなります。
書留やレターパックなど記録の残る郵便は、追跡番号で探してもらうことができます。
郵送するときは、記録の残る郵便で提出することをおすすめします。
⑤家庭裁判所から照会文書が届く
家庭裁判所に対して相続放棄の申立てをすると、相続放棄照会書が届きます。
相続放棄照会書とは、家庭裁判所から届く相続放棄についての意思確認です。
相続放棄照会書は、家庭裁判所によって名前が違うことがあります。
相続放棄は、影響の大きい手続なので間違いがないように慎重に確認します。
万が一、不適切な回答をすると相続放棄を認めてもらえなくなるかもしれません。
相続放棄の申立ての内容と食い違いが出ないように、書類を提出する前に控えをとっておくといいでしょう。
質問内容は、難しいものではありません。
事実をありのままに書けばいいでしょう。
被相続人が死亡してから3か月以上経過してから申立てをした場合、いつ死亡の事実を知ったかが重要なポイントになります。
相続放棄の申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内だからです。
相続があったことを知ってからですから、知らなかったのであれば3か月がスタートしません。
相続があったことを知ってから3か月以内であれば、相続放棄ができます。
家庭裁判所は、相続があったことを知ったのがいつなのか分かりません。
相続放棄照会書に対して回答する場合、いつ知ったのかを具体的に記載します。
何らかの書類が届いたことによって、自己のために相続があったことを知ったのであれば、この書類は重要な証拠になります。
回答書に添付して提出するといいでしょう。
電話連絡であれば電話連絡で知ったと書けば差し支えありません。
⑥相続放棄申述受理通知書で完了
相続放棄の申立てを受け付けた後、家庭裁判所は認めるか認めないか審査します。
相続放棄を認める判断をした場合、本人に対して、相続放棄申述受理通知書を送ります。
相続放棄申述受理通知書は、相続放棄を認めましたよという本人あてのお知らせです。
相続放棄申述受理通知書が届けば、相続手続は完了です。
相続放棄を認めた場合、家庭裁判所は本人にだけ通知をします。
家庭裁判所から、他の相続人や債権者などに自主的に相続放棄を認めましたと通知することはありません。
債権者などは、相続放棄が認められたことを知りません。
何も知らないから相続人に借金を返してもらおうと考えて、催促をしてきます。
相続放棄が認められたから、被相続人の借金を相続しません。
債権者に相続放棄受理通知書を見せると、分かってくれるでしょう。
相続放棄受理通知書は、本人あてのお知らせです。
いったん本人にお知らせをしたらお知らせは完了するから、再発行はされません。
相続放棄申述受理通知書の原本は保管しておいて、コピーを渡すといいでしょう。
多くの場合、相続放棄申述受理通知書のコピーを渡せば充分です。
相続放棄申述受理通知書を紛失してしまっても、相続放棄は無効になりません。
相続放棄申述受理通知書を紛失してしまった場合、家庭裁判所で相続放棄の証明をしてもらうことができます。
相続放棄の証明を相続放棄申述受理証明書と言います。
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄をした人だけでなく債権者や他の相続人など法律上の利害関係がある人は取得することができます。
債権者などの利害関係人は、自分で相続放棄申述受理証明書を取り寄せることができます。
3家庭裁判所で手続しないと相続放棄はできない
①家庭裁判所で相続放棄をしたら相続人でなくなる
相続放棄は、本来、家庭裁判所に対する手続です。
家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の申立てをします。
相続放棄をした場合、はじめから相続人でなくなります。
被相続人の債権者は、被相続人の借金を払って欲しいと請求することはできません。
②遺産分割協議で相続放棄はできない
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
被相続人の財産は、プラスの財産もマイナスの財産も相続財産になります。
相続人が相続する財産が、相続財産です。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
相続財産の分け方を決める相続人全員の話し合いを遺産分割協議と言います。
遺産分割協議において、一部の相続人が相続財産の受け取りをご辞退することがあります。
相続財産の受け取りをご辞退した人は、相続放棄をしたと表現するかもしれません。
相続財産の分け方を決める相続人全員の話し合いでご辞退しても、相続放棄ではありません。
相続放棄は、家庭裁判所で手続が必要だからです。
家庭裁判所で認めてもらわないと、相続放棄の効果は得られません。
③相続財産をご辞退しても借金を相続
相続放棄をした場合、はじめから相続人でなくなります。
被相続人の債権者は、被相続人の借金を払って欲しいと請求することはできません。
相続財産の分け方を決める相続人全員の話し合いでご辞退しても、相続放棄ではありません。
被相続人の債権者は、相続財産をご辞退した人に被相続人の借金を払って欲しいと請求することはできます。
相続財産の分け方についての相続人全員の合意事項は、相続人内部の合意に過ぎないからです。
相続人内部の合意事項だから、債権者などには関係ない話です。
債権者は、相続人全員に対して法定相続分で借金の返済を請求することができます。
相続財産の受け取りをご辞退すると相続人全員の合意で決めても、相続人のままです。
相続財産の受け取りをご辞退するする場合、プラスの財産を受け取っていないでしょう。
プラスの財産を受け取っていなくても、被相続人の借金は負担しなければなりません。
自称専門家は家庭裁判所で相続放棄の手続をするのは面倒だから、相続人間で決める方がいいとアドバイスしています。
自称専門家から自信満々に言われたら、信じてしまうかもしれません。
相続放棄と遺産分割協議は、別の手続です。
充分注意しましょう。
4相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する申立てです。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられません。
家庭裁判所で相続放棄が認められたとしても、絶対的なものではありません。
相続放棄の要件を満たしていない場合、その後の裁判で相続放棄が否定されることもあり得ます。
相続が発生すると、家族はお葬式の手配から始まって膨大な手続きと身辺整理に追われます。
相続するのか、相続を放棄するのか充分に判断することなく、安易に相続財産に手を付けて、相続放棄ができなくなることがあります。
相続に関する手続の多くは、司法書士などの専門家に任せることができます。
手続を任せることで、大切な家族を追悼する余裕もできます。
相続人の調査や相続財産調査など適切に行って、充分に納得して手続を進めましょう。
相続放棄は3か月以内の制限があります。
3か月の期間内に手続をするのは思うよりハードルが高いものです。
相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。