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1相続財産とは
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続人が相続する財産が、相続財産です。
相続財産はプラスの財産とマイナスの財産があります。
どちらも、相続財産です。
①プラスの財産
一般的に不動産、預金、株式や投資信託などの有価証券、現金などです。
さらに、宝飾品や美術品など価値があるものはプラスの財産といえるでしょう。
多くの方が財産と言われてたときにイメージしやすいものです。
これ以外にも、賃借権や借地権などの権利もプラスの財産になります。
②マイナスの財産
一般的に借金やローンなどです。
未払の税金や未払の入院費用などもマイナスの財産になります。
被相続人が連帯保証人であった場合は、連帯保証人の地位は相続人が引き継ぎます。
イメージしにくいですが、この連帯保証人の地位もマイナスの財産と言えます。
2お墓は相続財産ではない
被相続人の財産は、原則として、相続財産になります。
被相続人の財産であっても、次のような財産は、相続財産になりません。
①一身専属権
一身専属権とは、その人個人しか持つことができない権利や資格のことです。
権利行使をするかしないか、本来の権利者個人の意思次第とするのが適当とされる権利です。
例えば、生活保護受給権や扶養請求権などです。
一身専属権は、原則として、相続財産になりません。
遺留分侵害額請求権は、本人の意思が重視されます。
被相続人が遺留分侵害額請求をしないまま死亡した場合、相続人は遺留分侵害額請求権を相続して行使することはできません。
精神的苦痛に対する慰謝料請求権も、本人の意思が重視されます。
被相続人が精神的苦痛に対する慰謝料請求をしないまま死亡した場合、相続人は精神的苦痛に対する慰謝料請求権を相続して行使することはできません。
生命侵害に対する慰謝料請求権は、本人の意思が重視されません。
本人は、生命侵害によって死亡して意思を示すことができないからです。
たとえ、即死であっても被害者に生命侵害に対する慰謝料請求権が発生し、生命侵害に対する慰謝料請求権は相続人に相続されます。
②祭祀用財産
墓地、墓石、仏壇、家系図などの先祖祭祀のための財産は、相続財産とは別に扱います。
祭祀用財産は、祭祀を主宰すべき人が受け継ぎます。
③相続人の固有の財産
被相続人の死亡によって受け取るものであっても、相続人の固有の財産であることがあります。
相続人の固有の財産ですから、当然、相続財産ではありません。
相続人が受取人になっている生命保険の死亡保険金や死亡退職金は、相続人の固有の財産です。
相続人の固有の財産だから、相続財産には含まれません。
相続財産に含まれないのに、相続税の課税対象になります。
相続税の課税対象になるから、相続財産だという誤解が発生します。
3相続放棄をしてもお墓を承継できる
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続放棄によって受け継ぐことがなくなるのは、相続財産についての話です。
お墓は相続財産ではありませんから、相続放棄とは無関係です。
相続放棄をしても相続放棄をしなくても、お墓を受け継ぐことができます。
お墓は祭祀用財産だからです。
祭祀用財産は、祭祀を主宰すべき人が受け継ぎます。
祭祀を主宰すべき人のことを祭祀承継者といいます。
お墓は、相続の対象ではありません。
相続人のうちのひとりが祭祀承継者になるのが一般的です。
お墓が複数ある場合、それぞれに祭祀承継者がいる場合もあります。
祭祀を主宰すべき人になる資格は、特にありません。
相続人であっても相続人以外の人でも、親族であっても親族でなくても、祭祀を主宰すべき人になることができます。
苗字が同じでない人であっても祭祀承継者になることができます。
ときには霊園管理者が祭祀承継者になる場合もあります。
相続のルールが適用されるものではありません。
先祖を祀ることは、親族の伝統や慣習、考え、気持ちと切り離せないからです。
祭祀用財産は親族の伝統や慣習、考え、気持ちと切り離せないから、相続財産一般と同様に分配することはできません。
祭祀承継者は、次のように決められます。
①被相続人の指定に従う
②慣習に従って決める
③家庭裁判所で決定する
被相続人が祭祀を主宰すべき人として指定する場合、一方的に指定することができます。
トラブル防止のために、本人の同意をもらっておく方がいいでしょう。
被相続人が指定しておらず慣習も明らかでない場合、家庭裁判所が指名します。
被相続人の意思、相続人の身分関係、過去の生活感情、祭祀を主宰する意欲や能力、他の相続人や周りの人の意見を聞いて総合的に判断します。
家庭裁判所は、総合的に考えて最もふさわしい人を祭祀承継者に指名します。
4お墓の承継する祭祀承継者は放棄できない
被相続人の指定、慣習、家庭裁判所の選択などで祭祀承継者に選ばれると、祭祀承継者になることを拒否することはできません。
相続が発生した後、相続放棄をした場合、相続人でなくなります。
祭祀承継者には放棄する制度がありません。
お墓は相続財産ではありませんから、相続放棄とは無関係です。
相続放棄をしても相続放棄をしなくても、お墓を受け継ぐことができます。
祭祀承継者に選ばれた場合、お墓を含む祭祀用財産を受け継ぐことになります。
祭祀用財産には、お墓以外にもいろいろな財産があります。
例えば、家系図や家系譜、仏壇、位牌、神棚、十字架、墓碑、霊屋などがあります。
これらの財産を受け継ぐことから、墓地の管理料や永代供養料の支払、法要の主宰、檀家としての支払などを負担します。
祭祀承継者がこれらの負担をした場合、他の親族に当然に分担を求めることができるものではありません。
将来、祭祀承継者がこれらの負担をすることになるといっても、相続分を多く受け取ることができるわけではありません。
祭祀継承者は、先祖供養などの祭祀を主宰しますが、どのような方針にするか決められていません。
受け継いだ祭祀用財産をどのように処分するか祭祀承継者に委ねられています。
祭祀用財産を処分するにあたって、他の親族の同意が必要になることはありません。
祭祀承継者は拒否することができない代わりに、幅広い裁量が認められています。
慣習に基づく親族などの話し合いで祭祀承継者を決める場合、祭祀をするにふさわしい人を祭祀承継者に決める必要があります。
5墓じまいと墓開きは多額の費用がかかる
祭祀承継者に選ばれた場合、お墓を含む祭祀用財産を受け継ぐことになります。
祭祀承継者には放棄する制度がありません。
自宅から遠方のお墓を受け継ぐことになったら、自分でお墓を管理することができなくなります。
祭祀承継者がお墓を移転したい場合、他の親族の同意が必要になることはありません。
お墓の移転をするには、墓じまいと墓開きをすることになります。
墓じまいをするには、改葬許可申請が必要になる他、墓地の使用契約を解約する必要があります。
お墓開きをするには、改葬許可申請が必要になる他、墓地の使用契約をする必要があります。
寺院や霊園の手続や墓石の撤去と設置に思わぬ高額の費用がかかる場合があります。
祭祀承継者がこれらの負担をした場合、他の親族に当然に分担を求めることができるものではありません。
相続財産の分け方を話し合うときにお墓の移転の費用負担を含めて決めておくといいでしょう。
6相続放棄を司法書士に依頼するメリット
お墓の継承は、相続とは別で扱われます。
お墓は、一般の財産とは同じように扱うことはできないから相続財産ではありません。
お墓は相続財産ではないから、相続放棄とも無関係です。
相続放棄をしても相続放棄をしなくても、お墓は受け継ぐことができます。
お墓は祭祀承継者に受け継がれます。
現代では家意識が薄れていますから、先祖祭祀は家の継承ではなくなっています。
死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情により行われるものと言えます。
被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対しこのような心情を最も強く持っている人が受け継ぐといいでしょう。
一方で、祭祀継承者がお墓の近くに住んでいるとは限りません。
親族がお墓の移転にいい顔をしないかもしれません。
お墓の移転には想像以上の費用がかかる場合があります。
このようなことも含めて、相続財産の分け方の話し合いをする必要があります。
相続や祭祀承継者を決める場合、親族のいろいろな考えが表面化します。
相続放棄を考える方は、すみやかに司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。