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1遺産分割協議は相続人全員で
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続財産を分けるためには、相続人全員の合意が必要になります。
相続人調査をすると、ときには思いもよらない相続人が判明することがあります。
相続人であることを知っていても、連絡を取ったことがない人が現れることがあります。
相当長期間、行方不明で親族のだれとも連絡を取れていない場合など、死亡の可能性が高い場合があります。
このような場合であっても、相続財産の分け方は、相続人全員での合意しなければなりません。
連絡が取れないからと言って、一部の相続人を含めないで遺産分割協議をしても無効です。
銀行などの金融機関は口座の解約や名義変更に応じてくれないし、法務局も不動産の名義変更に応じてくれません。
被相続人と音信不通だったからとか、お葬式にも来ていないのにという気持ちは分かりますが、相続財産の分け方は相続人全員で合意する必要があるのです。
2失踪宣告とは
①失踪宣告がされると行方不明の人は死亡と見なされる
相当長期間、行方不明になっている場合、死亡している可能性が高い場合があります。
条件を満たした場合、死亡の取り扱いをすることができます。
失踪宣告とは、行方不明の人が死亡した取り扱いとするための手続です。
失踪宣告がされたら、たとえ死亡していなくても死亡した取り扱いをします。
死亡した取り扱いをしますから、失踪宣告がされた人に相続が発生します。
失踪宣告には、普通失踪と特別失踪の2種類があります。
②普通失踪とは
普通失踪とは、行方不明の人について7年間生死不明の場合、申立てができるものです。
普通失踪の申立てをした場合、失踪宣告がされるまでおよそ3か月以上かかります。
家庭裁判所の状況や事件の内容によっては、1年ほどかかる場合もあります。
生死不明になってから7年間経過したときに、死亡したものと見なされます。
③特別失踪(危難失踪)
特別失踪とは、「戦地に行った者」「沈没した船舶に乗っていた者」「その他死亡の原因となる災難に遭遇した者」について、危難が去ってから1年間生死不明の場合、申立てができるものです。
特別失踪の申立てをした場合、失踪宣告がされるまでおよそ1か月以上かかります。
危難が去ったときに、死亡したものと見なされます。
④失踪宣告後生きていることが分かったら失踪宣告の取消
失踪宣告とは、行方不明の人が死亡した取り扱いとするための手続です。
失踪宣告がされたら、たとえ生きていても死亡した取り扱いがされます。
行方不明の人に失踪宣告がされた後、本人が帰ってくることがあります。
失踪宣告がされた後、生きていることが分かった場合、失踪宣告を取り消してもらいます。
失踪宣告した日と違う日に死亡していたことが判明する場合があります。
失踪宣告がされた後、失踪宣告した日と違う日に死亡していたことが分かった場合、失踪宣告を取り消してもらいます。
失踪宣告をするときも失踪宣告を取り消すときも、家庭裁判所の関与が必要です。
失踪宣告は、死亡したと扱う重大な手続だからです。
3失踪宣告の申立ての手続方法
①失踪宣告の申立てができる人
(1)行方不明の人の配偶者
(2)相続人にあたる人
(3)債権者などの利害関係人
不在者財産管理人選任の申立ては、検察官が申立てをすることができます。
失踪宣告の申立ては、検察官は申立てすることができません。
失踪宣告は、死亡した取り扱いをするという強力な効果があります。
行方不明の人の帰りを待つ家族の心情に配慮したためです。
②失踪宣告の申立先
失踪宣告の申立先は、行方不明の人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄は裁判所のホームページで調べることができます。
③失踪宣告の申立ての添付書類
失踪宣告の申立書に添付する書類は以下のとおりです。
(1)行方不明の人の戸籍謄本
(2)行方不明の人の戸籍の附票
(3)行方不明であることが分かる資料
(4)利害関係の分かる資料
4失踪宣告の手続の流れ
①家庭裁判所が失踪の調査をする
家庭裁判所は、申立書を受け付けた後、独自で調査をします。
申立人にいろいろな書類の提出を求めたり、文書で照会したりします。
ときには、家庭裁判所から呼出がある場合もあります。
②公示催告をする
家庭裁判所は、官報と裁判所の掲示板にお知らせを出します。
お知らせは、以下の内容です。
・失踪宣告の申立てが出されています。
・本人は生きていますと届出を出してください。
・本人の生死を知っている人はその旨届出をしてください。
官報と裁判所の掲示板に出すお知らせの期間は、普通失踪の場合で3か月以上です。
特別失踪の場合で1か月以上です。
③審判
官報と裁判所の掲示板に出すお知らせの期間中に、だれからも届出がなければ家庭裁判所は失踪宣告の審判をします。
④審判の確定
家庭裁判所が審判をした後に、不服を言う人がいなければ失踪宣告の審判は確定します。
家庭裁判所が審判をした後に不服を言うことができる期間は、2週間です。
失踪宣告の審判がされた後、なにごともなく2週間経過すると失踪宣告の審判は確定します。
失踪宣告が確定した場合、家庭裁判所はあらためて官報にお知らせを出します。
このお知らせは「失踪宣告がされました」という意味です。
⑤審判の確定証明書の取得
失踪宣告の審判がされたら、家庭裁判所から審判書謄本が送付されます。
審判書が届いても、審判が確定するわけではありません。
失踪宣告の審判がされた後、2週間は不服を言う人が現れるかもしれないからです。
なにごともなく2週間経過すると失踪宣告の審判は確定します。
確定しても何も連絡はありません。
2週間経過後に家庭裁判所に申請をして、確定証明書を取得します。
確定証明書の請求は、家庭裁判所に出向いて手続をすることもできるし、郵送で手続をすることもできます。
⑥失踪届を提出する
失踪宣告の審判が確定した後でも、家庭裁判所から市区町村役場に連絡がされることはありません。
審判が確定した後、審判書謄本と確定証明書を添えて10日以内に市区町村役場に届出が必要です。
⑦戸籍に失踪宣告が記載される
市区町村役場に届出をして、はじめて戸籍に記載がされます。
相続手続では、失踪宣告の記載のある戸籍が必要になりますから、届出をしないと相続手続が進まなくなります。
戸籍には次のように記載されます。
【死亡とみなされる日】令和〇年〇月〇日
【失踪宣告の裁判確定日】令和〇年〇月〇日
【届出日】令和〇年〇月〇日
【届出人】親族 ○○○○
5失踪宣告されたら相続が開始する
失踪宣告されたら、行方不明の人は死亡した取り扱いをします。
失踪宣告された人は、死亡した取り扱いなので相続が開始します。
失踪宣告された人を被相続人として相続手続をします。
相続が発生する日は、死亡とみなされる日です。
失踪宣告の申立てをした日ではありません。
だれが相続人になるのかよく確認して手続を進めましょう。
6行方不明の相続人に失踪宣告がされたら
①被相続人の死亡日より前に死亡と見なされたら代襲相続
失踪宣告により死亡と見なされる日は、失踪宣告の申立日ではありません。
普通失踪であれば、生死不明になってから7年間経過したときです。
特別失踪であれば、危難が去ったときです。
相当長期間、行方不明になっていた後に失踪宣告がされる場合があります。
行方不明の相続人に失踪宣告がされた場合、被相続人の死亡日より前に死亡と見なされることがあります。
失踪宣告により死亡と見なされる日は、失踪宣告の申立日ではないからです。
被相続人の死亡日より前に死亡と見なされる場合、代襲相続が発生します。
相続手続に参加するのは、失踪宣告がされた人の子どもなど代襲相続人です。
②被相続人の死亡日より後に死亡と見なされたら数次相続
行方不明の相続人に失踪宣告がされた場合、被相続人の死亡日より後に死亡と見なされることがあります。
被相続人の死亡日より後に死亡と見なされる場合、代襲相続が発生しません。
被相続人の死亡日より後に死亡と見なされる場合、数次相続になります。
数次相続が発生した場合、失踪宣告された人の相続人が相続します。
代襲相続ではないから、直系卑属に限られません。
死亡と見なされる日が被相続人の死亡日の前になるのか後になるのかよく確認しましょう。
失踪宣告がされた人の相続人を確定するために、死亡とみなされた日は重要です。
相続手続に参加する人を間違えると手続が無効になりかねません。
7遺言書があれば遺産分割協議は不要
相続が発生したら、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
何も対策していなかったら、相続人全員で相続財産の分け方についての合意が不可欠です。
相続人の中に、疎遠な人や行方不明の人がいる場合、残されたれた相続人は大変な負担を負うことになります。
遺産分割協議はそうでなくても、トラブルになりやすい手続です。
対策しておけば、遺産分割協議を不要にすることができます。
この対策は、遺言書を書いておくことです。
遺言書があれば、相続財産の分け方について、相続人全員の合意は不要になります。
相続人に行方不明の人がいても、いなくても、遺言書のとおり分ければいいからです。
遺言書は隠匿や改ざんのおそれのない公正証書遺言がおすすめです。
8生死不明の相続人がいる相続を司法書士に依頼するメリット
相続人が行方不明であることは、割とよくあることです。
行方不明の相続人がいると、相続手続を進めることができません。
相続が発生した後、困っている人はたくさんいます。
自分たちで手続しようとして、挫折する方も少なくありません。
失踪宣告の申立ては、家庭裁判所に手続が必要になります。
通常ではあまり聞かない手続になると、専門家のサポートが必要になることが多いでしょう。
信託銀行などは、高額な手数料で相続手続を代行しています。
被相続人が生前、相続人のためを思って、高額な費用を払っておいても、信託銀行はこのような手間のかかる手続を投げ出して知識のない遺族を困らせます。
知識のない相続人が困らないように高額でも費用を払ってくれたはずなのに、これでは意味がありません。
税金の専門家なども対応できないでしょう。
困っている遺族はどうしていいか分からないまま、途方に暮れてしまいます。
裁判所に提出する書類作成は、司法書士の専門分野です。
途方に暮れた相続人をサポートして、相続手続を進めることができます。
自分たちでやってみて挫折した方も、信託銀行などから丸投げされた方も、相続手続で不安がある方は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。