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1換価分割は事前の合意がポイント
①換価分割とは
相続財産にはいろいろな財産が含まれています。
不動産のように分けにくい財産もあるし、金銭のように分けやすい財産もあります。
相続財産の大部分が不動産のような分けにくい財産の場合、相続財産の分け方についての合意が難しくなるでしょう。
相続財産の大部分が不動産のような分けにくい財産の場合、換価分割をすることで合意ができる場合があります。
換価分割とは、不動産を売却してお金に換えた後、お金を分ける方法です。
実際に売れてからお金で分けるので、不動産の値段をいくらと考えるか、だれが実際に不動産を相続するのかで話し合いがまとまらないという心配はありません。
せっかく家族が守ってきた不動産を手放すことへの罪悪感にかられて、話し合いがまとまらないおそれがあります。
売却しようとしたのに買い手がつかないと相続手続きが長引くおそれがあります。
②相続財産を手放すことを合意しておく
換価分割では、不動産を売却してお金に換えた後、お金を分割します。
せっかく家族が守ってきた不動産を手放すことへの罪悪感にかられると、換価分割が失敗します。
不動産を手放すことついて相続人全員が充分に納得して合意することが重要です。
②売却経費の範囲や支払方法を合意しておく
換価分割では、不動産を売却してお金に換えた後、お金を分割します。
不動産を売却するためには、多くの経費が掛かります。
不動産の売買を日常的にすることはあまりありません。
不動産の売買価格自体に注目しすぎて、経費は見落としがちです。
経費が掛かること自体にあまり意識が向かない相続人がいます。
どのような経費がどれくらいかかるのか、どのような経費を経費の範囲とするのか相続人全員が共有しておきましょう。
例えば、不動産売却の経費には次のようなものがあります。
(1)相続登記
(2)相続登記の登録免許税
(3)売買仲介手数料
(4)売買契約書の印紙代
(5)残置物の撤去費用
(6)測量費用
(7)建物解体費用
(8)建物滅失登記
(9)譲渡所得税
(10)交通費、郵便費などの実費
上記の中でも発生しない経費があるかもしれません。
建物を解体しなくても売却できるかもしれません。
建物を解体する場合、建物の構造や大きさにもよっても違いますが100万円単位で費用がかかることも少なくありません。
残置物の撤去費用や測量費用は、多くの場合、売却代金を受け取る前に支払います。
各相続人が一々清算する方法は、平等ですが煩雑です。
代表相続人が立て替える方法は、事務がカンタンになる一方で代表相続人の負担が大きいかもしれません。
代表相続人の事務負担が大きいのに相続分が同じ場合、事務負担を不満に思うかもしれません。
相続人全員で売却経費の範囲や支払方法を合意しておくことが重要です。
③売却金額と売却時期を合意しておく
不動産は、いくつもの評価方法があります。
相続人としては不動産を高く売却したいと思うでしょう。
強気の価格設定では、思うように売れないかもしれません。
いつまでたっても売却できないことも充分にあり得ます。
早く売却しようとすれば、思うような値がつかないかもしれません。
相続人全員が売却条件に納得できることが重要です。
④売却までの維持管理費の支払方法を合意しておく
売却するまで、維持管理が必要です。
不動産であれば、固定資産税がかかり続けます。
売却に時間がかかる場合、固定資産税の支払は無視できない金額になります。
人が住まない建物は劣化が早いものです。
定期的な管理が欠かせません。
建物の管理をだれが負担するのか、固定資産税の支払方法をどうするのか相続人全員で合意しておくことが重要です。
2換価分割をするときの遺産分割協議書の書き方
①共有名義にする方法
記載例
第1条
次の不動産は換価分割を行うため相続人〇〇〇〇2分の1、相続人◇◇◇◇4分の1、相続人□□□□4分の1の割合で共有取得する。
所在 ○○市○○町○丁目
地番 ○番○
地目 宅地
地積 200㎡
第2条
相続人〇〇〇〇、相続人◇◇◇◇、相続人□□□□は共同して、前条の不動産を売却する。
売却代金から売却にかかるすべての費用を控除した残金を各相続人の共有持分割合に従って取得する。
共有名義にすると売却手続の代表相続人を決める必要がありません。
固定資産税の納税通知書は、代表者のもとに届きます。
だれが代表者になって固定資産税の納税通知を受け取るか決めて役所に届け出る必要があります。
納税通知を受け取らない相続人が固定資産税を負担しないなどとトラブルになります。
登記が実態に合うので贈与税のトラブルになるリスクを減らすことができます。
共有名義にした場合、不動産の売却手続きに相続人全員が関与しなければなりません。
不動産会社と媒介契約、重要事項説明、売買契約など手続が煩雑になります。
相続人が遠方に住んでいる場合、日程調整だけでも時間がかかりがちになります。
②代表相続人にする方法
記載例
第1条
次の不動産は換価分割を行うことを目的として相続人〇〇〇〇が取得する。
所在 ○○市○○町○丁目
地番 ○番○
地目 宅地
地積 200㎡
第2条
相続人〇〇〇〇は、前条の不動産をすみやかに売却する。
売却代金から売却にかかるすべての費用を控除した残金を次の割合に従って分配する。
相続人〇〇〇〇 2分の1
相続人◇◇◇◇ 4分の1
相続人□□□□ 4分の1
代表相続人を決めておくと、売却手続に関与するのは代表相続人だけになります。
相続人間で合意が不充分の場合、売却条件をめぐってトラブルになりやすくなります。
代表相続人が売却代金をなかなか払ってくれない、売却代金を使い込んだなどのリスクがあります。
登記名義が代表相続人になるので、固定資産税が代表相続人あてに届きます。
相続人間で合意が不充分の場合、負担をめぐって相続人間でトラブルになりがちです。
長期間に渡って売却ができない場合、売却代金の分配に対して贈与税が課されるおそれがあります。
贈与税は、一般的に想像以上に高額になります。
③売却代金を受け取らない相続人名義にする方法
記載例
第1条
次の不動産は換価分割を行うことを目的として相続人〇〇〇〇が取得する。
所在 ○○市○○町○丁目
地番 ○番○
地目 宅地
地積 200㎡
第2条
相続人〇〇〇〇は、前条の不動産をすみやかに売却する。
売却代金から売却にかかるすべての費用を控除した残金を相続人◇◇◇◇が取得する。
多くの場合、売却代金を取得する相続人が売却手続をします。
例えば、高齢や病気などで売却手続をすることが困難な場合があるでしょう。
他の相続人が売却手続に関与した方がスムーズです。
3換価分割で遺産分割協議書を書くときの注意点
①相続登記ができるように記載
相続が発生した後に売却する場合、相続登記が必要です。
相続登記を省略して、買主に所有権移転登記をすることができないからです。
遺産分割協議書は、法務局で相続登記を認めてもらえるように記載する必要があります。
だれが取得するのか明記します。
取得する不動産は、第三者が見て特定できるように記載します。
②売却代金が贈与と判断されないように記載
売却手続に相続人全員が関与するのは、難しいことが多いでしょう。
デメリットも多いものですが代表相続人名義にするケースが多いです。
代表相続人に名義を取得させるのは、換価分割のためであることを明確にします。
そのうえで売却代金から売却にかかるすべての費用を控除した残金を分配することを明記します。
このような記載があれば、原則として、贈与税の課税はされません。
③長期間売却できないと贈与税が課されるおそれ
遺産分割協議書に「換価分割のため」「売却代金から売却にかかるすべての費用を控除した残金を分配する」とあれば、原則として、問題になることはありません。
不動産が長期間売却できない場合、売却金の分配が何年も後になることがあります。
売却できなければ、このようなことも止むを得ないことです。
一方で登記名義を得た後、長期間経過してから売却金を分配した場合、実態としては贈与として課税されるおそれがあります。
法律上、換価分割による売却金の分配であって、かつ、遺産分割協議書に記載があっても、課税されるリスクがあります。
このようなリスクを考慮に入れて、代表者名義にすることや売却条件の合意をする必要があります。
4換価分割をするメリット
①相続人に公平に分割することができる
換価分割が選択されるのは、分けにくい財産がある場合です。
相続財産の大部分が自宅不動産の場合、相続人に公平に分けるのが困難です。
いったん売却してお金で分けるのであれば公平に分けることができます。
②代償金を用意しなくてもいい
相続財産の大部分が自宅不動産の場合、相続人に公平に分けるのが困難です。
一部の相続人が自宅不動産を取得して、取得しなかった相続人に代償金を払う場合があります。
このような分割方法を代償分割と言います。
代償分割の場合、財産を取得した相続人が固有の財産から代償金を支払わなければなりません。
代償金が支払えない場合、代償分割はできなくなります。
換価分割では売却代金を分割するから、代償金を準備しなくて済みます。
5遺産分割協議書作成を司法書士に依頼するメリット
遺産分割協議書は遺産の分け方について、相続人全員による合意を取りまとめた文書です。
合意がきちんと文書になっているからこそトラブルが防止できるといえます。
つまり、書き方に不備があるとトラブルを起こしてしまう危険があります。
せっかくお話合いによる合意ができたのに、取りまとめた文書の不備でトラブルになるのは残念なことです。
トラブルを防止するため、遺産分割協議書を作成したい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。