尊厳死宣言公正証書で延命治療拒否の意思表示

1尊厳死と安楽死のちがい

高齢化社会が到来して、多くの方は長生きになりました。

現代の医学の発展により、身体状況を管理して、少なからぬ期間の生命維持ができるようになりました。

このような延命治療は苦痛を伴うことが多いです。

大きな苦痛を伴いながら、回復の見込みのない状態で治療を受け続けることは、人間としての尊厳を保てないとも考えられます。

不知の病で回復の見込みのない状態になったとき、過剰な延命治療を避け尊厳を持って自然な死を受け入れることを望む人が増えています。

回復の見込みのない状態になったとき、過剰な延命措置を行わず尊厳を持って自然な死を迎えることを、尊厳死と言います。

本人の自己決定権を尊重すべきという考えの人は、尊厳死を認める考えになりやすいです。

延命治療をしないことは、医療の放棄であるという考えの人は、尊厳死を認めない考えになりやすいです。

どちらも正しく、どちらも間違いではありません。

法律上は、尊厳死を認めると直接定めたものはありません。

日本医師会や学会などは、尊厳死を認める意見です。

苦痛から解放されるために、医師などが薬物などを積極的に使って死を迎える安楽死とは別物です。

尊厳死は、過度な治療を行わないことで、自然な死を迎えるものです。

2尊厳死宣言書を公正証書にするメリット

尊厳死宣言とは、回復の見込みのない状態になったとき、過剰な延命措置を行わず尊厳を持って自然な死を迎える意思を示した文書です。

尊厳を持って自然な死を迎える意思を持っていたとしても、医師や家族に伝えていないと意思はかなえられません。

自力で意思表示ができなくなってからでは、尊厳死の希望はかなえられないのです。

法律上は、尊厳死を認めると直接定めたものはありません。

公正証書でなければならないといったルールがあるわけではありません。

公正証書は、公証人に尊厳死を希望していることを伝えて、公証人が作る公的な書類です。

公証人は、身分証明書などで本人確認をしたうえで、本人の意思を確認して、公正証書を作ります。

本人は尊厳死を希望していなかったのではないかなどとトラブルになることがありません。

尊厳死宣言書原本は、公証役場で保管されます。

尊厳死宣言書が偽造ではないかなどといったトラブルとも無縁です。

公証人の作る公正証書は、極めて信頼性が高いものとされています。

公正証書でない尊厳死宣言書の場合、本人の意思であるのかはっきりしていないという疑いが残ります。

本人の意思であるのかはっきりしていないと、医師は慎重な判断をすることになるでしょう。

何より、公正証書にすることは本人の強い意志を感じさせます。

医師は本人の意思であると信頼するからこそ、尊厳死を実現させてくれます。

実際、95%以上の医師が尊厳死宣言の提出があったら、本人の意思を尊重すると答えています。

尊厳死宣言書に強制力はありませんが、高い確率で尊厳死が実現すると言えます。

3尊厳死宣言書の内容

①尊厳死を希望する意思

法律上は、尊厳死を認めると直接定めたものはありません。

だから、記載内容についてもルールがあるわけではありません。

遺言書と同様に、後日トラブルにならないようにするために作成しておくものです。

おおむね、次のような内容を書きます。

過剰な延命措置をしないで、自然な死を迎えることを希望するという内容です。

死が差し迫ったとき、苦痛を和らげて欲しいこと、安らかに最期を迎えることを希望することを表明します。

尊厳死宣言書の核心で、最も重要な点です。

しないで欲しい具体的な治療内容や治療を中止する条件も、書いておきます。

急に心肺停止状態になったとき、蘇生措置を希望するのか、口から食事がとれなくなったら、どうするのかなど具体的に記載します。

②尊厳死を望む理由

尊厳死を望む理由を書くと、尊厳死を希望することの説得力が増します。

例えば、親族が延命治療を受けたとき、本人にとっても家族にとっても医師にとっても苛酷と思えたからなどです。

③家族の同意

尊厳死を望むのであれば、このことを家族に伝え、家族に理解してもらう必要があります。

95%以上の医師が尊厳死宣言の提出があったら、本人の意思を尊重すると答えています。

事前に家族が何も聞かされていなかったら、気持ちが動揺して延命治療を望むでしょう。

本人が強く尊厳死を望んでも、家族が延命治療の継続を望んだら、医師は無視できません。

家族とのトラブルをおそれて、医療関係者は延命治療を続けるでしょう。

尊厳死宣言書に連名で署名してもらうことは有効です。

尊厳死宣言書作成に家族も同席し、家族の同意書と印鑑証明書を添付してもいいでしょう。

最終的に決めるのは、家族と医療関係者です。

④医師に対する免責

尊厳死の実現に尽力してくれた医師らに法的な責任を問われないようにする内容です。

刑事責任については、警察や検察関係者が判断することですが、最大の配慮を求める内容を書いておきましょう。

賠償責任も問わないことを明示します。

⑤尊厳死宣言書の効力

尊厳死宣言書は本人が元気なときに、作ったものであることを書きます。

本人自ら撤回しない限り有効であることを明らかにします。

5尊厳死宣言は遺言書に書いても意味がない

尊厳死宣言も、遺言書も、いわゆる終活で話題にのぼります。

尊厳死宣言は遺言書に書いておけばよいと考える方もいます。

尊厳死宣言書と遺言書は性質の違うものです。

遺言書に尊厳死宣言を書くことは、おすすめできません。

遺言書は被相続人が死亡した後、効力が発生します。

相続が発生した後、遺言書の内容を確認することになるでしょう。

自筆証書遺言であれば、相続発生後、家庭裁判所で開封してもらいます。

家族が遺言書の内容を知っていたとしても、通常は他の家族に内容を秘密にしておくでしょう。

遺言書を見て、尊厳死宣言がされていると気づいても、遅いのです。

延命治療をしないで欲しいという意思表示は、生きているうちに医師に伝わる必要があります。

遺言書の内容を医師ら医療関係者が確認するのも現実的ではありません。

遺言の内容は、法律関係のことだからです。

遺言書に書いて有効になることは、詳細に決められています。

遺言に書いて有効になることの中にも、尊厳死宣言はありません。

6尊厳死宣言を司法書士に依頼するメリット

生前対策=相続「税」対策の誤解から、生前対策をする人はあまり多くありません。

争族対策として有効な遺言書ですら、死亡者全体からみると10%未満です。

尊厳死宣言は人間としての尊厳を維持したいという希望を文書にしたものです。

元気だった時の姿を知っている家族は、ベッドに横たわるだけの姿を見ると動揺します。

回復の見込みのない状態だと分かっていても、大きな苦痛を伴うことを知っていても、どうするかを判断したくない気持ちになるでしょう。

何も判断したくない、判断を先延ばししたいという気持ちから、延命措置が続けられます。

延命措置が続けられれば、苦痛も続きます。

延命措置が続く間、本人も苦痛が続き、見ている家族も苦痛が続くのです。

家族は、後々になっても、本人を苦しめてしまったのではないかと後悔するのです。

尊厳死宣言は、自己決定権を尊重するものです。

自分がどのような治療や措置を受けたいのか、どのような治療や措置を受けたくないのか、どのような最期を迎えたいのか意思を示すものです。

家族は、本人の意思をかなえてあげることができると救われます。

自分自身のためにも、大切な家族のためにも、意思を示してあげましょう。

大切な家族に面倒をかけないために尊厳死宣言書を作成したい方は、すぐに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

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