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1認知症で口座凍結
①認知症になると資産が凍結される
口座が凍結されると、預貯金があっても引き出しや解約ができなくなります。
高齢になると、身のまわりのことが不自由になることが多いでしょう。
施設などに入所して、お世話をしてもらいたいと考えるかもしれません。
口座に預貯金があっても引き出しができないから、施設費用は家族が立替えることになるでしょう。
施設の入所費用は、自宅を売却した代金で賄いたいと考えているかもしれません。
自宅の持ち主が認知症になると、売却をすることはできません。
物事のメリットデメリットを適切に判断できない状態で、売買契約などができないからです。
認知症になると、銀行口座から預貯金が引出せなくなります。
認知症になると、不動産などを売却することができなくなります。
認知症になると、資産すべてが凍結されます。
②認知症になると口座凍結する理由
認知症になると、物事のメリットデメリットを適切に判断することができなくなります。
記憶があいまいになることがあるでしょう。
物事のメリットデメリットを適切に判断できない状態で、自分の財産を管理することはできません。
自分の預貯金を管理できなくなると、口座は凍結されます。
口座凍結とは、口座の取引を停止することです。
口座取引には、次のものがあります。
・ATMや窓口で預貯金の引出し
・定期預金などの解約
・年金などの振込み
・公共料金の引落し
認知症による口座凍結では、年金などの振込みや公共料金などの引落しは利用できることがあります。
本人が財産管理ができなくなると、家族が勝手に引き出すかもしれません。
認知症の人の大切な財産を守るため、銀行は口座を凍結します。
本人が自分で財産管理ができないのに安易に引出しに応じたら、他の家族から強い抗議を受けるおそれがあるからです。
記憶があいまいになると、自分で預貯金を引出しても忘れてしまうことがあります。
本人や本人の家族とのトラブル回避するため、口座凍結します。
③口座凍結するタイミング
軽度の認知症であれば、家族なども認知症に気づかないかもしれません。
口座の持ち主が認知症であると、銀行が知ったとき口座凍結します。
口座が凍結されると、口座に預貯金があっても使うことができなくなります。
本人や家族は、銀行に知らせないようにしようとするかもしれません。
重度の認知症になると、キャッシュカードを紛失したり暗証番号が分からなくなったりします。
キャッシュカードの再交付や暗証番号の再設定では、本人が窓口で手続をする必要があります。
重度の認知症になったら、窓口で適切な受け答えが難しいでしょう。
相当に高齢の人が窓口で適切に受け答えができないとなると、認知症と判断されるでしょう。
窓口で手続する機会があると、銀行は本人が認知症になっていることを知ることになります。
口座凍結するタイミングは、口座の持ち主が認知症になっていることを銀行が知ったときです。
④口座凍結すると代理人カードで引き出せない
銀行によっては、代理人カードを発行する制度を設けていることがあります。
代理人カードとは、指定された代理人のためのキャッシュカードです。
代理人カードがあれば本人から委任状を出してもらわなくても、一定の範囲の口座取引をすることができます。
代理人カードを発行してもらっていても、口座凍結を解除することはできません。
口座の持ち主が認知症になっていると判断したら、口座を凍結します。
口座凍結したら、代理人カードがあっても引き出しはできません。
⑤成年後見人が口座凍結解除
認知症になると、自分の財産を管理することができなくなります。
成年後見人は、認知症の人の財産管理をする人です。
認知症の人のために、適切に財産管理をします。
成年後見人は、口座凍結の解除をすることができます。
2家族信託で認知症による口座凍結対策
①信頼できる家族と信託契約
認知症になると、資産があるのに利活用ができなくなります。
認知症になる前に、資産凍結に備える必要があります。
認知症による資産凍結対策として、家族信託が有効です。
家族信託契約とは、信頼する家族に財産管理を依頼する契約です。
所有権をよく見ると、財産を管理する権利と財産を利用する権利に分けることができます。
財産を管理する権利を信頼できる家族に渡して、財産を利用する権利だけ持っていることができます。
家族信託とは、財産を管理する権利を信頼できる家族に渡して、財産を利用する権利だけ持っている仕組みです。
家族信託を利用すると、認知症による資産凍結に効果的な対策になります。
財産を管理する権利を信頼できる家族に渡してあるからです。
資産凍結する理由は、所有者が自分で財産を管理できないからです。
家族信託を利用すると、信頼できる家族が財産を管理してくれます。
家族信託の当事者は、次の3つです。
・委託者 もともとの財産の所有者
・受託者 信託契約で財産管理を任される人
・受益者 財産を利用する権利を持つ人
認知症対策で家族信託を利用する場合、委託者と受益者は認知症の心配がある親、受託者は信頼できる家族です。
信頼できる家族と信託契約をすることで、効果的に認知症対策をすることができます。
②任意後見監督人は不要にできない
成年後見は、2種類あります。
任意後見と法定後見です。
任意後見は、認知症になったときに備えてサポートを依頼する契約です。
法定後見は、認知症になった後でサポートする人を家庭裁判所に選んでもらう制度です。
成年後見人は、認知症の人の財産管理をする人です。
任意後見では、任意後見監督人を不要にできません。
任意後見監督人は、弁護士や司法書士などの専門家です。
専門家が任意後見監督人になった場合、報酬が発生します。
任意後見監督人の報酬は、本人の財産から支払われます。
③成年後見人は家庭裁判所が選任
任意後見契約ができるのは、本人が認知症になる前だけです。
認知症になってしまったら、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらうより方法がありません。
だれを成年後見人にするか、家庭裁判所が決定します。
実際のところ、家族が成年後見人に選任されるのは20%程度です。
成年後見人は、弁護士や司法書士などの専門家です。
成年後見人の報酬は、本人の財産から支払われます。
成年後見人は、家庭裁判所が選任します。
3家族信託でできること
①信託口口座は凍結されない
家族信託では、信頼できる家族が信託財産を管理します。
どのような財産を管理してもらうのか、信託契約で決めておきます。
信頼できる家族が信託財産を管理する場合、自分の財産と別にして管理します。
認知症による口座凍結対策のために家族信託をする場合、信託口口座がおすすめです。
信託口口座とは、信託用の特別な口座です。
委託者兼受益者が認知症になっても、信託は継続します。
家族は信託契約の定めに従って委託者兼受益者のために、財産を使うことができます。
受託者が管理しているから、口座は凍結されません。
家族信託を利用することで、口座の預貯金を本人のために使うことができます。
②家族が財産管理
信託契約で財産管理を依頼する人は、自分で決めることができます。
成年後見人は、家庭裁判所が決定します。
見知らぬ専門家から財産について、あれこれ言われなくないでしょう。
家族信託を利用することで、家族に財産管理を任せることができます。
③柔軟な財産管理
成年後見制度を利用した場合、本人が財産を守ることに重点が置かれます。
本人の財産を減らすような財産管理は、許されません。
家庭裁判所の方針に合わないと、辞任勧告がされるでしょう。
家族信託では、財産の管理方針を信託契約で決めておくことができます。
信託契約の定めに従って、家族が財産管理をすることができます。
家族信託を利用することで、柔軟な財産管理をすることができます。
④相続対策につなげることができる
認知症対策で家族信託をする場合、委託者兼受益者が死亡したら信託を終了させます。
信託が終了したときに、だれが財産を引き継ぐのか信託契約で決めておきます。
委託者兼受益者が死亡したときに信託が終了するから、実質的に遺言書で財産の引き継ぎ先を決めるのと同様の効果があります。
高齢になった親に遺言書を書いて欲しいと切り出すと、機嫌を損ねるでしょう。
家族信託は、認知症対策に重点が置かれます。
認知症対策は、本人がよりよく生きるための対策です。
前向きに話をしやすいでしょう。
家族信託を利用することで、相続対策につなげることができます。
⑤事務負担と費用負担が少ない
成年後見では、定期的に家庭裁判所に報告をしなければなりません。
報告の内容が不十分である場合、やり直しを求められます。
今まで、家族の中で細かく収支報告をすることがなかったでしょう。
事務は苦手などは、理由になりません。
家庭裁判所に対する報告の事務負担は今までの家事の延長と比べると、想像以上に重いものです。
専門家が成年後見人に選任された場合、本人の財産から報酬を負担します。
成年後見は、原則として、本人が死亡するまで終了しません。
長い目で見ると、大きな負担になるでしょう。
家族信託では、信託契約をするときに費用がかかります。
契約後に継続的にかかる費用は、少なく済みます。
全体で見ると、費用が少なくなることが多いでしょう。
家族信託を利用することで、事務負担と費用負担を少なくすることができます。
4家族信託を利用する手順
①司法書士などの専門家に相談
家族信託に精通した専門家に相談します。
家族の事情を話しやすい専門家がいいでしょう。
家族信託を利用する手順1つ目は、司法書士などの専門家に相談することです。
②信託契約の設計
家族信託の登場人物である委託者、受託者、受益者を決定します。
信託する財産を決定して、信託目的と財産の管理方針を決めます。
家族信託を利用する手順2つ目は、信託契約の設計することです。
③信託契約書を作成
手順②で決めた内容を書面に取りまとめます。
信託契約は、公正証書で作成するのが一般的です。
この段階で、公証役場と信託口口座を開設する銀行と打合せをします。
銀行によっては、契約審査料がかかります。
家族信託を利用する手順3つ目は信託契約書を作成することです。
④信託口口座の開設
信託口口座を開設する銀行に出向き、口座開設します。
銀行によっては、口座開設手数料がかかります。
家族信託を利用する手順4つ目は、信託口口座の開設することです。
⑤資金移動
委託者の口座にある預貯金を信託口口座に振り込みます。
多くの場合、ATMの振込み限度額を超すでしょう。
窓口で、振込手続をする必要があります。
家族信託を利用する手順5つ目は、委託者兼受益者が資金移動することです。
5家族信託の注意点
①認知症になる前に信託契約
家族信託は、信頼できる家族とする契約です。
物事のメリットデメリットを充分に判断できない場合、契約は無効になります。
家族信託は、認知症対策として検討することが多いでしょう。
今日は元気だから、明日も元気でこれからもずっと元気だろうと思いがちです。
認知症は、本人も家族も気付かないうちに進行していきます。
家族信託の注意点1つ目は、認知症になる前に信託契約をすることです。
②家族信託以外の制度を活用する
家族信託を利用すると、相続対策につなげることができます。
相続対策できるのは、信託財産だけです。
信託財産以外は、遺言書が必要になるでしょう。
遺言書を作成しなければ、相続発生後に遺産分割協議が必要になります。
家族信託では、家族が財産管理をすることができます。
管理でき財産は、信託財産だけです。
成年後見を利用する必要があるときに備えて、任意後見契約をするといいでしょう。
家族信託の注意点2つ目は、家族信託以外の制度を活用することです。
③家族全員が信託契約を理解しておく
家族信託の当事者は、委託者兼受益者と受託者です。
委託者兼受益者と受託者以外の家族も、家族信託の内容を理解しておくのが重要です。
家族信託の内容を知らされていないと、トラブルに発展するおそれがあるからです。
家族信託の注意点3つ目は、家族全員が信託契約を理解しておくことです。
④税金のメリットはない
家族信託を利用するだけで、直接的な節税効果は見込めません。
信頼できる家族が資産管理をする過程で、結果として節税につながることはあるでしょう。
家族信託の注意点4つ目は、税金のメリットはないことです。
6家族信託を司法書士に依頼するメリット
家族信託は、信頼できる家族と締結する契約です。
委託者兼受益者と受託者だけでなく、家族みんなで意見共有が重要です。
家族信託を考え始めてから、実際に契約ができるまでに時間がかかることが通常です。
認知症は、進行性があります。
今日は元気だから、明日も元気で、これからずっと元気と思いたいものです。
急に、症状が進むことがあります。
認知症が心配になってから、家族信託の検討を始めるので、家族で争いが起きるのです。
まだまだ元気!若い者には負けない!と言える時こそ、対策のはじめどきです。
家族信託を考えている方は、早めに司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。