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1一人に全財産を相続させることができる
①相続財産の分け方に制限はない
被相続人は、生前に自分の財産を自由に処分することができます。
遺言書を作成して、自分の死亡後だれに財産を引き継ぐのか自由に決めることができます。
相続人に引き継ぐことも、相続人以外の人に引き継ぐこともできます。
民法では、法定相続分が決められています。
法定相続分どおりに引き継ぐこともできるし、法定相続分とは違う割合で引き継ぐこともできます。
相続財産の分け方に、制限はないからです。
「全財産を〇〇〇〇に相続させる」遺言も、有効な遺言書です。
遺言書を作成して、相続財産の分け方を自由に決めることができます。
相続財産の分け方に、制限はありません。
②一人に全財産を相続させるときの遺言書の記載例
遺言書
遺言者は、以下のとおり遺言をする。
第1条
遺言者は、遺言者の有する全財産を、遺言者の配偶者〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生まれ)に相続させる。
第2条
遺言者は、本遺言書の遺言執行者として、下記の者を指定する。
事務所住所
〇〇県〇〇市〇〇区〇〇町〇丁目〇〇番〇〇号
司法書士〇〇〇〇
昭和〇年〇月〇日生まれ
令和〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇区〇〇町〇丁目〇〇番〇〇号
遺言者 〇〇〇〇 印
③遺言書で財産を列挙する方が分かりやすい
全財産を一人に相続させたい場合、「遺言者の有する全財産を相続させる」と書くことができます。
家族であっても、遺言者がどのような財産を保有しているのか詳細に知らないことがあります。
遺言者の気持ちとしては、当然知っているものと考えているかもしれません。
どこにどのような財産があるのか手がかりがない状態で、相続手続をするのは非常に困難です。
できることであれば、すべての財産を列挙することをおすすめします。
不動産であれば、不動産の登記事項証明書を取り寄せて書き写します。
預貯金であれば、通帳を見て金融機関の名称、支店、預金種別、口座番号を記載します。
財産を客観的に特定できない場合、相続手続ができなくなるおそれがあるからです。
そのうえで記載のない財産が見つかった場合、その財産を〇〇〇〇に相続させると記載するといいでしょう。
財産をひとつひとつ列挙する方が家族にとって分かりやすく、おすすめです。
④全財産を遺贈する記載例
遺言書
遺言者は、以下のとおり遺言をする。
第1条
遺言者は、遺言者の有する全財産を、〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生まれ)に遺贈する。
第2条
遺言者は、本遺言書の遺言執行者として、下記の者を指定する。
事務所住所
〇〇県〇〇市〇〇区〇〇町〇丁目〇〇番〇〇号
司法書士〇〇〇〇
昭和〇年〇月〇日生まれ
令和〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇区〇〇町〇丁目〇〇番〇〇号
遺言者 〇〇〇〇 印
⑤相続人以外の人に遺贈ができる
相続が発生したら、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続人になる人は、法律で決められています。
相続人以外の人が相続することはできません。
疎遠になった相続人より、お世話になった人に財産を引き継ぎたいことがあるでしょう。
遺贈とは、遺言書を作成して相続人や相続人以外の人に財産を引き継ぐことです。
遺言書を作成して、相続人以外の第三者に全財産を遺贈することができます。
遺贈を受ける人は、自然人以外に慈善団体などの法人でも差し支えありません。
遺言書を作成して、相続人以外の人に遺贈ができます。
2公正証書遺言があっても遺留分侵害額請求ができる
①遺留分は最低限の権利
被相続人は、生前自分の財産を自由に処分することができます。
遺言書を作成して、自分の死後にだれに財産を引き継ぐのが自由に決めることができます。
被相続人の財産は、ひとりで築いた財産ではないでしょう。
家族の協力があってこそ、築くことができた財産のはずです。
被相続人の名義になっているからといって、まったく無制約の自由にすることはできません。
今まで協力してきた家族に、酷な結果となることがあるからです。
被相続人に近い関係の相続人には、相続財産に対して最低限の権利が認められています。
遺留分とは、被相続人に近い関係の相続人に認められる最低限の権利です。
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められます。
遺留分を認められる相続人を遺留分権利者と言います。
②遺留分を侵害する遺言書でも無効にならない
被相続人に近い関係の相続人には、遺留分が認められます。
全財産を一部の相続人に相続させる遺言書を作成した場合、他の相続人の遺留分を侵害するでしょう。
遺留分を侵害しても、それだけで遺言書は無効になりません。
全財産を相続させる遺言書は、有効な遺言書です。
遺留分を侵害する遺言書でも、遺言書は無効になりません。
③有効な遺言書であっても遺留分侵害額請求ができる
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められた最低限の権利です。
不公平な遺言書によって配分された財産が遺留分に満たない場合、遺留分侵害額請求をすることができます。
全財産を相続させる遺言書は、有効な遺言書です。
有効な遺言書であっても、遺留分侵害額請求をすることができます。
公正証書遺言であっても、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分は、最低限の権利だからです。
全財産を相続させる内容で公正証書遺言を作成するだけで、遺留分を奪うことはできません。
有効な遺言書であっても、遺留分侵害額請求をすることができます。
④遺留分を認めない遺言書に効力はない
遺言書には、さまざまなことを書くことができます。
遺言書に書くことで法律上意味があることも意味がないことも、書くことができます。
家族への感謝の気持ちを持ちながら、伝える機会を逃していることがあります。
遺言書に、家族への感謝の気持ちを書くことができます。
家族への感謝の気持ちに、法律上の意味はありません。
法律上意味がない事項を付言事項と言います。
全財産を相続させる遺言書を見たら、他の相続人はがっかりするでしょう。
不公平な遺言書によって配分された財産が遺留分に満たない場合、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分侵害額請求がされたら、相続人間で深刻なトラブルに発展するでしょう。
遺言書で「遺留分を認めない」「遺留分侵害額請求を禁止する」と書くことがあります。
遺言書に書くことで意味があることは、法律で決められています。
遺留分を認めない遺言書に、効力はありません。
「遺留分を認めない」「遺留分侵害額請求を禁止する」と書いた場合、付言事項と考えられます。
遺留分は、遺留分権利者に認められた最低限の権利だからです。
不公平な遺言書を作成するだけで、遺留分を奪うことはできません。
「遺留分を認めない」「遺留分侵害額請求を禁止する」と書いてあっても、遺留分侵害額請求をすることができます。
付言事項に、法律上の効力はないからです。
遺留分を認めない遺言書に、法律上の効力はありません。
⑤兄弟姉妹に遺留分はない
被相続人に子どもがいない場合で、かつ、親などの直系尊属が被相続人より先に死亡している場合、兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹は相続人になっても、遺留分は認められません。
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められる権利だからです。
兄弟姉妹が被相続人より先に死亡した場合、兄弟姉妹の子どもが代襲相続をします。
被相続人の甥姪が代襲相続人になっても、遺留分は認められません。
兄弟姉妹に遺留分がないから、引き継げないのが当然だからです。
全財産を相続させる遺言書を作成しても、遺留分侵害額請求を心配する必要はありません。
例えば、子どもがいない夫婦で一方が死亡した場合、配偶者と兄弟姉妹が相続人になるでしょう。
公正証書遺言を作成して、配偶者に全財産を相続させることができます。
兄弟姉妹は相続人になるから、配偶者に全財産を相続させるためには遺言書が必要になります。
兄弟姉妹が相続人になる場合、兄弟姉妹に遺留分はありません。
3公正証書遺言の作り方
STEP①遺言内容を仮作成
遺言書を作成すると言うと、財産の分け方が真っ先に思い浮かぶでしょう。
遺言者にどのような財産があるのか、だれに引き継ぐのかメモ書きをします。
財産の分け方以外のことも、遺言書に盛り込むことができます。
ステップ1で、遺言内容をメモなどで仮作成します。
STEP②財産に関する書類を準備
遺言書に財産の分け方を書く場合、客観的に特定できる必要があります。
銀行預金などであれば、金融機関名、支店名、預金種別、口座番号、口座名義で特定します。
通帳のコピーを準備するといいでしょう。
家族にとって、自宅は重要な財産でしょう。
「自宅」などの記載は、客観的に特定できるとは言えません。
家族にとって「自宅」は当然のことでしょう。
法務局など第三者にとっては、自宅はどこにあるどの不動産なのか分からないからです。
土地は、所在、地番、地目、地積で特定します。
建物は、所在、家屋番号、種類、構造、床面積で特定します。
自宅の住所は、暗記しているでしょう。
自宅がある土地や建物の所在は、住所と異なることがあります。
登記簿や権利証を確認する必要があります。
ステップ2で、財産に関する書類を準備します。
STEP③証人2人を手配
公正証書遺言を作成する場合、証人2人に確認してもらう必要があります。
証人に特別な資格は、不要です。
次の人は、証人になれません。
(1)未成年者
(2)推定相続人、受遺者、これらの人の配偶者、直系血族
(3)公証人の配偶者、4親等内の親族、書記、使用人
証人を手配するのが難しいときは、遺言書作成をサポートする司法書士に依頼することができます。
証人になる人は、公証役場に本人確認書類を提出します。
ステップ3で、証人2人を手配します。
STEP④公証人と打合せ
公正証書遺言は、原則として公証役場に出向いて作成します。
日本中どこの公証役場でも、公正証書遺言を作成することができます。
病気や身体などの事情で公証役場に出向くことができない場合、公証人に出張してもらうことができます。
公証人を予約して、遺言内容の打ち合わせをします。
公証人との打ち合わせは、適切に書面に取りまとめる点についての打合せです。
遺言者の希望を実現する方法については、事前に考えておく必要があります。
遺言内容によっては、相続人間でトラブルに発展するおそれがあるかもしれません。
トラブル防止について、公証人に相談することはできません。
どのような遺言書を作成するといいのか、司法書士などの専門家にサポートを受けるといいでしょう。
ステップ4で、公証人と打合せをします。
STEP⑤公正証書文案確認
公証人との打ち合わせが終わると、公証人から公正証書文案が示されます。
遺言書の内容が遺言者の希望に沿っているのか、よく確認します。
ステップ5で、公正証書の文案を確認します。
STEP⑥証人立会いで公正証書遺言作成
公正証書の文案に問題がなければ、遺言書の作成日を予約します。
証人2人と一緒に、遺言書作成当日に公証役場に出向きます。
遺言書作成当日は、遺言内容を口授し遺言内容に問題ないか確認します。
問題がなければ、遺言者、証人2人が署名し押印します。
時間は、長くても30分程度です。
ステップ6で、証人立会いで公正証書遺言を作成します。
STEP⑦手数料の支払
公正証書遺言を作成するためには、手数料がかかります。
手数料は、現金の他クレジットカードで支払うことができます。
公証役場に支払う手数料は、公証人手数料令によって決められています。
公証人に出張してもらったときは、手数料が1.5倍になるうえ日当と交通費実費がかかります。
公正証書遺言作成後に渡される正本と謄本の費用が数千円程度かかります。
ステップ7で、公証役場に手数料の支払います。
4遺言書作成を司法書士に依頼するメリット
自せっかく遺言書を作るのなら、確実な公正証書遺言がおすすめです。
公正証書遺言を作成するときは、司法書士などの専門家にサポートしてもらうといいでしょう。
相続人になる予定の人の遺留分に配慮し、遺言書文案作成から公正証書遺言作成まで、サポートを受けられるからです。
希望すれば、証人を準備し遺言執行までトータルでサポートしてもらうことができます。
確実な遺言書を作成できるから、遺言者は安心できます。
手間と時間がかかる相続手続から解放されるから、相続発生後に相続人は安心です。
遺言者も家族も安心できる公正証書遺言作成を司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。