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1遺贈と相続のちがい
遺贈とは、被相続人が遺言によって、法定相続人や法定相続人以外の人に、財産を譲ってあげることです。
遺贈で財産を譲ってあげる人のことを遺贈者、譲ってもらう人を受遺者と言います。
相続では、法定相続人だけに譲ってあげることができます。
遺贈では、法定相続人に譲ってあげることもできるし、相続人以外の人に譲ってあげることができます。
譲ってもらう人は自然人でもいいし、法人などの団体でも差し支えありません。
遺言書に「遺贈する」とあれば、譲ってもらう人が相続人であっても相続人以外の人でも、遺贈で手続します。
2特定遺贈とは
遺贈には、2種類あります。
特定遺贈と包括遺贈です。
特定遺贈とは、遺言書に、「財産〇〇〇〇を遺贈する」と財産を具体的に書いてある場合です。
包括遺贈とは、遺言書に、「財産すべてを包括遺贈する」「財産の2分の1を包括遺贈する」と割合だけ書いて財産を具体的に書いてない場合です。
2種類を組み合わせることもできます。
遺贈を受ける人のことを受遺者と言います。
①遺言書に具体的財産が書いてある
特定遺贈では、遺言書に書いてある特定の財産を譲ってあげるだけ、特定の財産を譲ってもらうだけです。
遺言書に書いていないマイナスの財産を受け継ぐことはありません。
相続財産の内容は、不動産、預貯金、株式、借金などいろいろな種類があるのが通常です。
ポイントは、遺産のうちどの財産を譲ってあげるのか具体的に特定する必要がある点です。
銀行預金であれば、○○銀行○○支店普通預金口座番号○○○○などとしっかり明記しましょう。
不動産であれば、「自宅」などの記載は不明確です。
登記事項証明書を参考に書き写しましょう。
土地であれば、所在地、地番、土地の種類、地積を書いて特定します。
建物であれば、所在地、家屋番号、構造、面積を書いて特定します。
固定資産税の課税明細書は、記載が省略されていることがあります。
譲ってあげる財産が特定できないなどのトラブルになる可能性がありますから、登記事項証明書を見て、書き写しましょう。
遺言書に書いていない財産は譲ってあげることも、譲ってもらうこともありません。
自宅など土地と建物がある場合は、別々に両方書きます。
さらに、私道を共有している場合もあります。
よく確認して、書き漏らしのないようにしましょう。
②遺産分割協議が不要
特定遺贈では、受け継ぐ財産が具体的に特定されています。
特定の財産を譲ってあげるだけ、特定の財産を譲ってもらうだけです。
その他の財産については無関係です。
相続財産の分け方について、相続人全員で話し合いによる合意は不要です。
包括遺贈を受けた場合、財産の分け方について、相続人全員と合意する必要があります。
相続財産の中にマイナスの財産がある場合、マイナスの財産も指定された割合で受け継ぐことになります。
3特定遺贈も包括遺贈も放棄ができる
遺贈とは、被相続人が遺言によって、法定相続人や法定相続人以外の人に、財産を譲ってあげることです。
遺言書は相続人らの関与なしに作ることができます。
遺言で遺贈や相続のことを定める場合、遺言者が受け取る人の意見を聞かずに、一方的に決めることができます。
遺言に書いてあるからとは言っても、受け取ると相続人に気兼ねすることがあります。
相続人とトラブルになりたくないから、ご辞退したい場合もあるでしょう。
遺贈は、特定遺贈であっても、包括遺贈であっても、放棄することができます。
それぞれで、手続の方法が違います。
①特定遺贈の放棄は遺贈義務者へ
遺贈義務者に対して、遺贈を放棄することを通知します。
通知の名宛人になるのは遺贈義務者です。
遺贈義務者は次のとおりです。
(1)遺言執行者がいる場合、遺言執行者です。
(2)遺言執行者がいない場合、相続人です。
(3)遺言執行者も相続人もいない場合、相続財産管理人です。
特定遺贈は遺贈全部を放棄することもできるし、一部だけ放棄することもできます。
例えば、「株式と金100万円を遺贈する」と遺言にあった場合
株式は受け取るが、金100万円は放棄する。
金50万円は受け取るが、その他は放棄する。
具体的に分けることができるのであれば、一部だけ受け取ることができます。
遺贈を放棄することの通知は、相続発生後であればいつでも構いません。
相続が発生してから、何年もした後、放棄することもできます。
遺贈義務者や利害関係人は、相当の期間を決めて、遺贈を承認するのか放棄するのか、質問することができます。
放棄するのか、遺贈を承認するのか、はっきりしないと相続人が困るからです。
遺贈義務者や利害関係人からの質問に、返事をしないと遺贈を承認したものとみなされます。
遺贈を放棄したい場合は、期間内に放棄することを通知しましょう。
トラブルにならないように、配達証明付き内容証明郵便で通知するといいでしょう。
②包括遺贈の放棄は家庭裁判所へ
包括遺贈を受ける人は相続人と同一の権利義務があります。
包括遺贈を放棄する場合、相続を放棄する場合と同じ手続をします。
家庭裁判所に対して、包括遺贈放棄の申立をします。
自己のために包括遺贈があることを知ってから、3か月以内に手続きしなければなりません。
包括遺贈放棄の申立先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄はホームページで調べることができます。
4受遺者が先に死亡した場合、代襲相続はできない
遺言書に「□□に財産□□を遺贈する」と書いてあるケースがあります。
相続も、遺贈も、財産を譲ってもらう人が遺言者より先に死亡している場合、遺言のその部分は無効になります。
□□が遺言者より先に死亡している場合、「□□に財産□□を遺贈する」は無効になります。
遺言は死亡時に効力が発生するので、死亡時に受取人が存在している必要があるからです。
遺言によって財産を受け取る権利は、本人限りです。
「□□に財産□□を遺贈する」は無効になりますから、財産□□は遺言書に記載がない財産になります。
遺言書に記載がない財産は、相続人全員の共有財産になります。
□□の子どもが代襲相続をすることはできません。
相続財産は相続人全員の共有財産ですから、相続人全員で分け方の合意が不可欠です。
スムーズな相続手続のためには、一工夫、必要です。
「受遺者□□が遺言者よりも先に死亡した場合、受遺者の子□□□に財産□□を遺贈する」のような内容を書いておくといいでしょう。
被相続人が死亡したとき、受遺者が生きていたが手続中に死亡した場合、「□□に財産□□を遺贈する」は有効です。
受遺者の子どもが相続します。
遺言執行者は間違えないようにしましょう。
5特定遺贈のメリットデメリット
①メリット
譲ってもらう人と受け取ってもらう財産が具体的に特定されているので、相続人全員の協議が必要ありません。
遺言書の記載どおり受け継いでもらえばいいので、トラブルを避けることができます。
遺贈を受け取るか、お断りするかゆっくり考えることができます。
遺言書で特定された財産を受け取るだけで、マイナスの財産を受け継ぐ心配がありません。
遺言書を書いた後、財産が処分されてしまうと、財産を受け取ることができなくなります。
②デメリット
他の相続人の遺留分を侵害するような遺贈の場合、遺留分侵害額請求がされるおそれがあります。
相続人以外の人が譲ってもらう場合、相続税の対象になります。
贈与税ではありません。
相続人以外の人が不動産を譲ってもらう場合、登録免許税は1000分の20です。
相続人以外の人が不動産を譲ってもらう場合、不動産取得税の対象になります。
6遺言書作成を司法書士に依頼するメリット
遺言書は遺言者の意思を示すものです。
自分が死んだことを考えたくないという気持ちがあると、抵抗したくなるかもしれません。
実は、民法に遺言書を作ることができるのは15歳以上と定められています。
死期が迫ってから書くものではありません。
遺言書は遺言者の意思を示すことで、家族をトラブルから守るものです。
遺贈とは、遺言によって、法定相続人や法定相続人以外の人に、財産を譲ってあげるものです。
遺贈は簡単に考えがちですが、思いのほか複雑な制度です。
特に、受け継いでもらう財産に不動産がある場合、譲ってもらう人だけでは登記申請ができません。
遺言執行者がいない場合、相続人全員の協力が必要です。
遺言書で遺言執行者を決めておきましょう。
遺言執行には法的な知識が必要になりますから、遺言の効力が発生したときに、遺言執行者からお断りをされてしまう心配もあります。
遺言の効力が発生した後の場合、遺言執行者は家庭裁判所に決めてもらう必要があります。
不動産以外の財産であっても、遺言書の内容に納得していない相続人がいる場合、受遺者に引渡そうとしないこともあります。
家族をトラブルから守ろうという気持ちを実現するために、せっかく遺言書を書くのですから、スムーズな手続を実現できるように配慮しましょう。
お互いを思いやり幸せを願う方は、遺言書作成を司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。