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1滞納者が死亡しても支払免除にならない
①プラスの財産とマイナスの財産を相続する
相続が発生したら、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続人が相続する財産が相続財産です。
被相続人の財産には、さまざまな種類の財産があるでしょう。
相続財産というと、プラスの財産だけをイメージしがちです。
例えば、不動産、預金、株式や投資信託などの有価証券、現金などです。
実際は、プラスの財産とマイナスの財産の両方が相続財産です。
マイナスの財産とは、借金やローンなどです。
相続人は、プラスの財産とマイナスの財産の両方を相続します。
②滞納している税金は相続人に支払義務
被相続人が税金を滞納したまま、死亡することがあります。
滞納している税金の支払義務は、相続財産です。
相続人は、被相続人が滞納した税金を相続します。
税金を滞納したまま滞納者が死亡しても、支払免除にはなりません。
滞納した税金は、マイナスの財産と言えます。
相続人は、プラスの財産とマイナスの財産の両方を相続します。
被相続人が滞納した税金は、相続人に支払義務があります。
③相続する税金の典型例
滞納する税金の典型例は、次のとおりです。
(1)住民税
(2)国民健康保険税
(3)固定資産税・都市計画税
(4)所得税
税金の滞納があるのか分からない場合、税務署や役所の税務課に確認することができます。
④納税義務承継通知書が届く
税金を滞納したまま死亡した場合、課税権者は相続人を調査することができます。
課税権者とは、税務署や市区町村など税金を徴収する権限がある公的機関のことです。
課税権者は、市区町村から滞納者の戸籍謄本を取り寄せて相続人を調査します。
相続人が判明したら、納税義務承継通知書を送付します。
納税義務承継通知書とは、納税義務が通知書の受取人に承継されたことのお知らせです。
納税通知書には、次の項目が書かれています。
(1)納税義務が継承された旨
(2)税金の滞納額
(3)納税義務の割合
(4)請求期限
さまざまな家族の事情から、被相続人と疎遠になっていることがあるでしょう。
納税義務承継通知書が届くことで、自分が相続人であることを知るかもしれません。
税金を滞納したまま死亡した場合、納税義務承継通知書が届きます。
2遺産分割協議は内部的取り決め
①滞納している税金を相続する人を決めることができる
相続が発生したら、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
相続財産の分け方を決めるため相続人全員でする話し合いを遺産分割協議と言います。
被相続人が税金を滞納していた場合、滞納していた税金は相続財産です。
滞納していた税金をだれが相続するのか、相続人全員で話し合いをすることができます。
相続人全員で合意ができたら、書面に取りまとめます。
相続人全員の合意内容を取りまとめた書面を遺産分割協議書と言います。
遺産分割協議書の内容に問題がないか相続人全員に確認してもらいます。
問題がなければ、相続人全員が記名し実印で押印します。
遺産分割協議書の押印が実印によることを証明するため、印鑑証明書を添付します。
遺産分割協議で滞納している税金を相続する人を決めることができます。
②相続する人を決めても税金の支払義務がある
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
相続人全員の合意で、滞納していた税金を相続する人を決めることができます。
滞納していた税金を相続する人を決めても、相続人全員に税金の支払義務があります。
相続人全員の合意は、相続人同士の内部的合意事項だからです。
遺産分割協議書に記名し実印で押印しても、相続人以外の人には何の効力もありません。
相続人間のトラブルを防止するために、遺産分割協議書を作成することに意味があります。
遺産分割協議で相続する人を決めても、相続人全員に税金の支払義務があります。
③相続人全員に税金の支払義務がある理由
仮に、相続人に税金の支払義務がないとすると不都合な結果になります。
相続人には、さまざまな経済状況の人がいるでしょう。
資力がある人も資力がない人もいます。
中には債務超過に陥っている相続人がいることがあります。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
債務超過の相続人が滞納している税金を相続する合意をするかもしれません。
自分の債務だけで債務超過になっているのに、滞納している税金を負担することになります。
自分の債務と滞納している税金の両方は、払えないでしょう。
債務超過の人は、自己破産することになります。
自己破産したら、滞納している税金は払うことはできません。
他の相続人はプラスの財産を受け取っておきながら、滞納していた税金は払われません。
税金をきちんと払っている納税者から見ると、理不尽な結果となります。
このような理不尽を許さないため、相続人全員に税金の支払義務があります。
④相続人全員が法定相続分で納税
相続人になる人は、法律で決まっています。
相続人が相続する相続分も、法律で決まっています。
各相続人が引き継ぐのは、滞納していた税金の法定相続分のみです。
相続人全員が法定相続分で滞納していた税金を納めます。
3税金の滞納を放置したら
①滞納処分が開始される
税金を納めないまま放置すると、滞納処分が開始されます。
滞納処分とは、納税者の意思に関わらず強制的に税金を取り立てるための手続です。
通常、財産を差押え、差押えた財産を換価し、税金に充当する一連の手続です。
被相続人が税金を滞納していた場合、滞納処分が開始していることがあります。
税金滞納者であった被相続人に滞納処分が開始していた場合、相続人が滞納処分を引き継ぎます。
滞納者が死亡しても、滞納処分の効果が失われるものではないからです。
税金を滞納したまま放置すると、滞納処分が開始されます。
②滞納処分の流れ
滞納処分は、納税者の意思に関わらず強制的に税金を取り立てるための手続です。
滞納処分の基本的な流れは、次のとおりです。
(1)督促状の送付
納期限を過ぎても納付がされない場合、督促状が送付されます。
督促状の送付は、滞納処分の前提の処分です。
納期限が過ぎると、延滞税が課されます。
延滞税だけの滞納も、滞納処分の対象です。
(2)文書や電話で催告
督促状が送付されても納付されない場合、文書や電話で納税催告がされます。
納税担当者と納付交渉で、分割納付や納付猶予が認められることがあります。
多くの場合、納付猶予が認められるのは、災害などの一定の理由が必要です。
(3)財産調査
文書や電話で催告しても納付されない場合、財産調査が行われます。
調査対象は、金融機関や勤務先、取引先などです。
財産調査をするにあたって、滞納者の承諾は不要です。
滞納処分は、納税者の意思に関わらず強制的に税金を取り立てるための手続だからです。
金融機関や勤務先、取引先は、財産調査に協力しなければなりません。
個人情報であることを理由に、協力を拒むことはできません。
(4)財産の差押
財産調査で滞納者の財産が判明したら、差押がされます。
差押えられた財産は、滞納者の意思に関わらず財産処分ができなくなります。
金銭的価値がある財産はすべて、差押の対象になります。
(5)換価処分し配当
差押えた財産は、強制的に換価されます。
例えば、不動産であれば競売し売却代金は滞納している税金に充当されます。
滞納してる税金に充当しても残余があれば、滞納者に配当されます。
③相続人の財産に差押がされる
被相続人が税金を滞納したまま死亡した場合、税金の支払義務は相続人が相続します。
滞納している税金の支払義務は、相続人に引き継がれます。
相続人が滞納した税金を放置していた場合、滞納処分が開始されます。
被相続人が滞納していた税金のために、相続人の財産が差し押さえられるかもしれません。
税金の支払義務は、相続人に引き継がれたからです。
自分の税金はきちんと納めているのに、という言い訳は通用しません。
被相続人から引き継いだ税金についても、支払義務があるからです。
被相続人が滞納した税金を放置したら、相続人の財産が差押えられます。
4相続放棄で滞納している税金を免れる
①3か月以内に家庭裁判所で手続
相続が発生したら、相続人は相続を単純承認するか相続放棄をするか選択することができます。
相続放棄を選択した場合、はじめから相続人でなくなります。
相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に対して相続放棄を希望する申立てをします。
相続放棄には、期限があります。
相続があったことを知ってから、3か月以内です。
相続があってから長期間経過した後、納税義務承継通知書が届くことがあります。
納税義務承継通知書が届いたことで、相続があったことを知るかもしれません。
納税義務承継通知書が届いたことで相続があったことを知った場合、納税義務承継通知書は重要です。
相続があったことを知ってから3か月以内であることを証明する証拠だからです。
相続放棄を希望する場合、3か月以内に家庭裁判所に手続をします。
②相続放棄をしたら他の財産は相続できない
相続放棄をしたら、はじめから相続人でなくなります。
マイナスの財産を相続しないし、プラスの財産を相続しません。
被相続人の滞納した借金を相続しないし、他の財産も相続しません。
相続放棄をしたら、他の財産は相続できなくなります。
③相続放棄は撤回できない
相続人は、相続を単純承認するか相続放棄をするか選択することができます。
相続を単純承認するか相続放棄をするか選択した後は、撤回することはできません。
仮に撤回を認めると、相続が混乱するからです。
家庭裁判所で相続放棄が認められた後、撤回することはできません。
④単純承認をすると相続放棄は無効
家庭裁判所で相続放棄が認められても、実際は無効であることがあります。
単純承認をしたのに、相続放棄の申立てをすることがあるからです。
被相続人の財産を処分したり利用したりした場合、単純承認と見なされます。
相続放棄を希望しているのに、相続人が被相続人の財産を処分したり利用したりすることがあります。
相続人が自覚せずに、被相続人の財産を処分したり利用したりすることがあるでしょう。
相続人が自覚していなくても被相続人の財産を処分したり利用したりした場合、単純承認と見なされます。
単純承認をした後に家庭裁判所が相続放棄を認める決定をしても、無効の決定です。
単純承認をすると、相続放棄は無効になります。
⑤相続放棄で次順位相続人に支払義務
相続人になる人は、法律で決められています。
相続人が相続放棄をした場合、はじめから相続人でなくなります。
被相続人に子どもがいる場合、子どもは相続人になります。
子どもが相続放棄をした場合、子どもは相続人でなくなります。
子ども全員が相続放棄をした場合、子どもはいない場合になります。
子どもがいない場合、相続人になるのは親などの直系尊属です。
相続放棄で次順位の人が相続人になります。
滞納していた税金は、次順位の人が相続します。
滞納していた税金の支払義務があると聞いたら、びっくりするでしょう。
相続放棄をしても、次順位の人に知らせる義務はありません。
知らせる義務がなくても、知らせてあげると親切でしょう。
相続放棄で、次順位相続人が支払義務を負うからです。
⑥相続放棄をしても死亡保険金は受け取れる
被相続人が死亡した場合に、生命保険の死亡保険金が支払われることがあります。
原則として生命保険の保険金を受け取る権利は、相続人の固有の財産です。
受取人が「相続人」と指定してあっても、相続で受け取るものではありません。
被相続人の死亡をきっかけにして、保険契約によって受取人が保険金を受け取るものです。
多くの場合、被相続人は生前に生命保険の死亡保険金を受け取る権利を持っていなかったでしょう。
相続によって、被相続人から受け継いだものではありません。
相続人の固有の財産だから、相続放棄をした人は生命保険の保険金を受け取ることができます。
生命保険の保険金を受け取ったことで、相続放棄が無効になることはありません。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄は、チャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできます。
高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続が発生してから3か月以内に手続ができなかったのは止むを得なかったと家庭裁判所に納得してもらうことが重要です。
家庭裁判所に対して、上申書や事情説明書という書類を添えて、説得します。
家庭裁判所が知りたいことを無視した作文やダラダラとした作文では認めてもらうことは難しいでしょう。
司法書士であれば、家庭裁判所に認めてもらえるポイントを承知しています。
認めてもらえやすい書類を作成することができます。
相続放棄を考えている方は、すみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。