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1相続登記は義務になる
①所有権移転登記は原則として権利
不動産に対する権利が変動した場合、登記をします。
権利が変動した場合で最もイメージしやすいものは、不動産を購入して所有権を取得した場合でしょう。
不動産を購入して所有権を取得した場合、購入したタイミングですぐに所有権移転登記をします。
登記をしていないと、不動産に対して権利主張をする人が現れた場合に負けてしまうからです。
不動産を購入して所有権を取得したはずなのに、見知らぬ人が不動産は自分のものだから明け渡して欲しいと言ってくるようなケースです。
登記がある場合、不動産は自分のものだから明け渡す必要はないと言い返すことができます。
登記がない場合、不動産を明け渡さなければならなくなるかもしれません。
せっかく不動産を購入したのに、不動産を明け渡さなければならなくなることは何としても避けたいはずです。
不動産は自分のものだと主張するために、購入したタイミングですぐに所有権移転登記をします。
所有権移転登記をしない場合、所有者は権利主張ができません。
所有権移転登記をしない場合、所有者が不利益を受けます。
所有権移転登記をすることは、所有者の権利であって義務ではありません。
②相続登記は義務
所有権移転登記をしない場合、所有者はソンをします。
不動産に対して権利主張をする人が現れた場合、所有者のはずなのに権利主張ができないからです。
不動産には、不便な場所にあるなどの理由で価値が低い土地が存在します。
所有者にとって利用価値が低い土地に対して権利主張をする人が現れた場合、所有者として権利主張する必要を感じないかもしれません。
相続登記は、手間のかかる手続です。
自分で相続登記をしようとするものの、多くの人は挫折します。
相続登記をする場合、登録免許税を納付しなければなりません。
相続登記を専門家に依頼する場合、専門家に報酬を支払う必要があります。
不動産の価値が低い場合、相続登記で手間と費用がもったいないと考える人が少なくありませんでした。
相続登記がされない場合、登記簿を見ても土地の所有者が分からなくなります。
所有者不明の土地の発生を防止するため、相続登記をすることは義務になりました。
③相続登記は3年以内に申請
相続が発生した場合、相続登記の申請義務が課せられました。
「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該所有権を取得したことを知った日」から3年以内に申請しなければなりません。
④令和6年4月1日以降に発生した相続が対象になる
相続登記の申請義務が課せられるのは、令和6年4月1日です。
令和6年4月1日以降に発生した相続は、当然に対象になります。
⑤令和6年4月1日以前に発生した相続が対象になる
ずっと以前に相続が発生したのに、相続登記を放置している例は少なくありません。
令和6年4月1日以前に発生した相続であっても、相続登記は義務になります。
⑥相続登記未了であればペナルティーが課せられる
相続登記は、3年以内に申請しなければなりません。
相続登記の申請義務を果たしていない場合、ペナルティーが課されます。
令和6年4月1日以前に発生した相続であっても、ペナルティーが課される予定です。
2相続登記義務化のペナルティーを回避する方法
①法定相続分で共有する相続登記
相続登記の申請義務を果たしていない場合、ペナルティーが課されます。
相続登記をするためには、登録免許税を納めなければなりません。
相続登記を専門家に依頼する場合、専門家に報酬を支払う必要があります。
そのうえペナルティーが課せられるのは、避けたいと考えるでしょう。
相続が発生した場合、被相続人のものは相続財産になります。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
多くの場合、相続人全員の合意で相続財産の分け方を決めます。
相続人全員の合意で相続財産の分け方を決めてから、相続登記をします。
相続人全員の合意で相続財産の分け方を決めることが難しいことがあります。
話し合いによる合意ができないまま長期間経過しているケースです。
相続財産は相続人全員の共有財産だから、相続人全員の法定相続分で相続登記をすることができます。
相続人全員の話し合いによる合意ができた場合、あらためて所有権移転登記をします。
手間と費用がかかることなどデメリットが大きいことから、あまりおすすめできません。
②相続人申告登記(相続人である旨の申出)
話し合いによる合意ができないまま長期間経過するケースは少なくありません。
相続登記は、3年以内に申請しなければなりません。
話し合いによる合意ができないまま3年以上経過した場合、一律にペナルティーを課すのは気の毒な面があります。
相続登記の義務化に伴うペナルティーを回避するため、相続人は相続が発生したことと相続人であることを申し出ることができます。
この申出を、相続人である旨の申出と言います。
相続人である旨の申出をしても、相続登記をしたことにはなりません。
単に、相続登記の義務化に伴うペナルティーを回避することができるに過ぎません。
③相続土地国庫帰属制度を活用する
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地の所有権を手放して国に引き取ってもらう制度です。
相続土地国庫帰属制度が始まる前に相続した人であっても、制度を利用することができます。
相続した土地の所有権を手放して国に引き取ってもらえば、相続登記の心配はしなくてよくなります。
宅地や雑種地だけでなく、山林、原野や農地を引き取ってもらうことができます。
農地の取引には、通常、農業委員会の許可等が必要になります。
相続土地国庫帰属制度を利用する場合、農業委員会の許可等は不要です。
土地であればどんな土地でも引き取ってもらえるわけではありません。
国の審査で認められた土地だけです。
審査してもらうのに、手数料がかかります。
審査で土地を引き取ってもらえると認められた場合、負担金の納付が必要です。
土地を国に引き取ってもらった場合、所有権移転登記は国がやってくれます。
国に所有権移転登記をする前提として、相続登記や住所変更登記が必要な場合は国が代わりにやってくれます。
④相続放棄をする
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
家庭裁判所で相続放棄が認めれた場合、はじめから相続人でなくなります。
相続人でないから、相続登記をする義務もなくなります。
3相続人申告登記は一時的なもの
①相続人申告登記で権利主張はできない
所有権移転登記をしない場合、所有者は権利主張ができません。
所有者が自分のものだと権利主張できることは、登記をすることの大きなメリットです。
相続人申告登記は、法務局に対する申出に過ぎません。
所有者が分からなくなることを防ぐための措置なので、所有者が権利主張することはできません。
②相続人である旨の申出は簡単な手続
相続人である旨の申出は、法務局に対する申出です。
登記名義人に相続が発生したことや申告した相続人の住所氏名などの簡単な事項を申し出するだけで済みます。
相続人である旨の申出には、被相続人と申出人の相続関係が分かるもののみです。
通常の相続登記では大量の戸籍謄本が必要になることと較べると簡単な手続です。
③相続人申告登記の登録免許税はかからない
相続人である旨の申出に登録免許税はかかりません。
相続人である旨の申出があった場合、登記官職権で登記されるからです。
④相続人である旨の申出の効果は申出人だけ
相続人である旨の申出をした場合、相続登記義務化に伴うペナルティーを回避することができます。
相続登記義務化に伴うペナルティーを回避することができるのは、申出をした人のみです。
多くの場合、相続人は複数いるでしょう。
一部の相続人だけが相続人である旨の申出をした場合、申出をした人のみペナルティーを回避できます。
他の相続人はペナルティーが課されるかもしれません。
一部の相続人は、他の相続人から委任を受けることができます。
委任を受けた相続人は他の相続人について、相続人である旨の申出をすることができます。
⑤相続人である旨の申出をしても相続登記は必要
不動産の登記名義人に相続が発生した場合、相続人は相続人である旨の申出をすることができます。
相続人である旨の申出をした場合、相続登記義務化に伴うペナルティーを回避することができます。
ペナルティーを回避することができるだけで、相続登記をしたわけではありません。
相続人である旨の申出をした後、相続人全員で相続財産の分け方を合意した場合、相続登記が必要です。
相続人全員で相続財産の分け方を合意した後、3年以内に相続登記をしなければなりません。
4相続登記を放置するとデメリットが大きい
①相続登記を放置すると遺産分割協議が難しくなる
相続登記をしないまま放置すると、相続人が死亡してしまうかもしれません。
すぐに相続登記をすれば、気ごころの知れた兄弟で話し合いをすれば済んだのに、放置したことで兄弟の配偶者や兄弟の子どもと話し合いをしなければならなくなります。
相続人が認知症などで判断ができなくなることがあります。
相続が発生したときは元気だったとしても、長期間放置しているうちに高齢になります。
相続人が高齢になると、認知症などを発症するリスクが高くなります。
相続人が行方不明などで連絡が取れなくなることがあります。
相続財産の分け方は相続人全員の話し合いによる合意が不可欠です。
行方不明だから、連絡を取れないからなどは、話し合いから除外していい理由になりません。
②相続登記を放置すると不動産活用ができなくなる
相続登記をしていないと、通常、売却ができません。
賃貸として貸し出す場合も、不動産を担保として差し出す場合も、相続登記は必要です。
特定の相続人が自分の持分を売ってしまうことがあります。
法定相続分で登記するのであれば、相続人は単独で登記ができます。
法定相続分で相続登記をした後、不動産の持分を売却することができます。
見知らぬ人が不動産を共有する場合、遠慮なく共有物分割請求などの権利主張をします。
③相続登記を放置すると手続費用が高くなる
相続登記には書類がたくさん必要になります。
役所から取り寄せる、戸籍や住民票などです。
長期間、相続登記を放置したことで相続人が死亡した場合、死亡した相続人の相続人を確定させる必要があります。
死亡した相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本が追加で必要になります。
単純に、集める戸籍謄本が増えるし、複雑になります。
5相続登記を司法書士に依頼するメリット
大切な家族を失ったら、大きな悲しみに包まれます。
やらなければいけないと分かっていても、気力がわかない方も多いです。
相続手続きは一生のうち何度も経験するものではないため、誰にとっても不慣れで手際よくできるものではありません。
相続手続きで使われる言葉は、法律用語なので一般の方にとって、日常で聞き慣れないものでしょう。
不動産は重要な財産であることも多いので、登記手続きは一般の方から見ると些細なことと思えるようなことでやり直しになることも多いです。
日常のお仕事や家事をこなしたうえに、これらのことがあると、疲労困憊になってしまうことも多いです。
司法書士などの専門家から見れば、トラブルのないスムーズな相続手続きであっても、多くの方はへとへとになってしまうものです。
相続手続きに疲れてイライラすると普段は温厚な人でも、トラブルを引き起こしかねません。
司法書士などの専門家はこのような方をサポートします。
相続手続でへとへとになったから先延ばしするより、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。