1法定相続情報一覧図とは
①法定相続情報一覧図を使うと相続手続がラク
相続が発生すると、相続人は多くの役所や銀行などの金融機関などで相続手続をすることになります。
相続手続のたびに、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍と相続人の現在戸籍の束を提出しなければなりません。
大量の戸籍を持ち歩くと汚してしまったり、紛失する心配があるでしょう。
受け取る役所や銀行などの金融機関にとっても、戸籍謄本の束を読解するのは手間のかかる事務です。
被相続人を中心にして、どういう続柄の人が相続人であるのか一目で分かるように家系図のように取りまとめてあると便利です。
この家系図と戸籍謄本等を法務局に提出して、登記官に点検してもらうことができます。
登記官は内容に問題がなかったら、地模様の入った専用紙に認証文を付けて印刷して、交付してくれます。
これが法定相続情報証明制度です。
登記官が地模様の入った専用紙に印刷してくれた家系図のことを法定相続情報一覧図と言います。
多くは家系図のように書きますが、相続人をずらっと書き並べることもできます。
税務申告など連記式の法定相続情報一覧図は提出できない場合があるので、作成前によく確認しましょう。
②法定相続情報一覧図のデメリット
法務局にいったん提出して点検してもらうので時間がかかります。
書き方が厳格に決まっているので、書き直しによって時間がかかることが多いです。
法務局の混雑により変わりますが2週間程度かかります。
再交付してもらうことができるのは、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出をした人のみです。
法定相続情報一覧図の保管は5年間のみなので、この期間を過ぎると再交付を受けることができなくなります。
2法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出ができない場合
法務局に戸籍謄本等の点検をお願いすることを法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出といいます。
①戸籍等が集められないと保管及び交付の申出ができない
法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書をするとき、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本をすべて集めて提出しなければなりません。
戸籍にはその人に身分関係がすべて記録されています。
結婚や離婚、子どもや養子の存在を家族には内緒にしている方もいますが、戸籍には記録されています。
戸籍が新しくなったときに、書き写される項目と書き写されない項目があります。
書き写されない項目を確認するために、出生から死亡までの連続した戸籍謄本を全部揃える必要があるのです。
例えば、子どもを認知したときは、戸籍に記載されます。
この後、戸籍のお引越し(転籍)や戸籍の作り直し(改製)などで新しい戸籍が作られた場合、新しい戸籍には子どもを認知したことは書き写されません。
最近の戸籍だけ見ていると、認知した子どもがいないと勘違いしてしまうでしょう。
この認知された子どもも、相続人になります。
戸籍の中にいた人が、全員他の戸籍に移ってしまった場合や死亡した場合、役所は除籍簿として管理しています。
除籍簿は保存期間が決められています。
保管期間が過ぎると順次、廃棄処分してしまいます。
廃棄処分してしまったものは、取得できなくなります。
役所の保存期間内であっても、役所に戸籍がない場合があります。
戸籍が戦災や災害で滅失してしまっている場合です。
必要な戸籍等を大幅に提出できない場合、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出ができません。
旧民法の家督相続による相続であっても、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書を提出することができます。
古い相続では、戸籍等が集められないことが多いでしょう。
必要な戸籍等を大幅に提出できない場合、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出ができません。
②日本国籍のない人がいると保管及び交付の申出ができない
法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書をするとき、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本をすべて集めて提出しなければなりません。
被相続人に日本国籍がない場合、戸籍等を提出することができません。
法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書をするとき、相続人の戸籍謄本を提出しなければなりません。
相続人に日本国籍がない場合、戸籍等を提出することができません。
戸籍謄本等を提出できない場合、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書をすることができません。
相続人が帰化した人である場合があります。
帰化した後に相続が発生したのであれば、相続発生時の戸籍を提出することができます。
このような場合は、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書を提出することができます。
3相続人が変更になると法定相続情報一覧図が使えなくなる
①子ども全員が相続放棄した場合は法定相続情報一覧図が使えない
法定相続情報一覧図は、戸籍謄本や住民票の内容を分かりやすく取りまとめたものです。
戸籍謄本や住民票に現れないことは、記載することができません。
相続放棄した相続人は、そのまま記載します。
戸籍謄本から分からないからです。
相続放棄申述受理証明書を提出した場合であっても、相続放棄をしたことを記載することはできません。
被相続人に子どもがいれば、戸籍謄本を見る限り、子どもが相続人になるように見えます。
法定相続情報一覧図に、親などの直系尊属を記載することができません。
親などの直系尊属を記載した場合、書き直しになります。
実際は、子ども全員が相続放棄をした場合、親などの直系尊属が相続人になります。
親などの直系尊属を記載することができないから、法定相続情報一覧図を使うことはできません。
②廃除された相続人がいる場合は法定相続情報一覧図が使えない
廃除された相続人は相続人でないから、法定相続情報一覧図に記載できません。
戸籍に記載があっても、相続人でないからです。
廃除された相続人の氏名や生年月日、廃除された年月日を記載した場合、書き直しになります。
相続人が廃除された場合、代襲相続が発生します。
法定相続情報一覧図に廃除の代襲相続人を記載することはできません。
廃除された相続人を記載することができないから、必然として、代襲相続人を書くことができません。
廃除された相続人は「被代襲者」と記載する場合であっても、書き直しになります。
被相続人が遺言書で相続人を廃除する場合があります。
遺言書で相続人を廃除する場合、遺言執行者が家庭裁判所に対して相続人廃除の申立てをします。
家庭裁判所が廃除の申立てについて判断する前に、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出がされる場合があります。
家庭裁判所の審査中だから、戸籍には何も書いてありません。
法定相続情報一覧図には、通常の相続人同様に記載することになります。
廃除された相続人は相続人になることができません。
廃除された相続人は相続人になることができないから、家庭裁判所の決定前に作られた法定相続情報一覧図を使うことはできません。
家庭裁判所が廃除の決定をした後、あらためて、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出をすることができます。
③欠格の相続人がいる場合は法定相続情報一覧図が使えない
欠格になった証明書を提出した場合であっても、法定相続情報一覧図に相続欠格であることを記載することはできません。
相続欠格になった相続人は、そのまま記載します。
戸籍謄本から分からないからです。
相続人が欠格である場合、代襲相続が発生します。
法定相続情報一覧図に欠格の相続人の代襲相続人を記載することはできません。
欠格の相続人は「被代襲者」と記載する場合であっても、書き直しになります。
④子どもが認知された場合は法定相続情報一覧図が使えない
被相続人の子どもは、必ず、相続人になります。
被相続人は、遺言書で認知をすることができます。
遺言書で認知をした場合、遺言執行者が認知届を役所に提出します。
遺言書で遺言執行者が指定されていない場合、家庭裁判所に対して遺言執行者選任の申立てをしなければなりません。
父親が死亡した後でも、死亡後3年以内であれば、認知を求める訴えを起こすことができます。
家庭裁判所で親子関係が認められた場合、子どもとして相続人になります。
認知を認める判決書と確定証明書を添えて、判決確定から10日以内に認知届を提出します。
役所に認知届が提出される前に、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出がされる場合があります。
認知届提出前だから、戸籍には何も書いてありません。
子どもは認知されていないので、法定相続情報一覧図に記載することはできません。
認知届が提出された後、認知届が提出される前に作られた法定相続情報一覧図を使うことはできません。
認知届が提出された後、あらためて、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出をすることができます。
⑤胎児が出生した場合は法定相続情報一覧図が使えない
被相続人の子どもは、必ず、相続人になります。
相続が発生したときに、子どもが胎児の場合があります。
相続が発生したときに胎児であっても、無事誕生すれば相続人になります。
胎児が誕生するまで数か月かかることがあります。
役所に出生届が提出される前に、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出がされる場合があります。
胎児が誕生する前だから、戸籍には何も書いてありません。
子どもは誕生していないので、法定相続情報一覧図に記載することはできません。
子どもが誕生した後、子どもが誕生する前に作られた法定相続情報一覧図を使うことはできません。
出生届が提出された後、あらためて、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出をすることができます。
4相続手続等以外では法定相続情報一覧図が使えない
法定相続情報一覧図は、必要に応じて、相続人の住所を記載することができます。
相続手続では相続人の住所が必要になる場合が多いでしょう。
法定相続情報一覧図は、相続人の住所を証明する書類として機能します。
法定相続情報一覧図は、相続手続に使うための書類です。
相続手続以外では、年金手続や相続税申告で使うことができますが、これら以外の手続で使うことはできません。
相続手続以外で、住所の証明としても提出しても証明書として認められません。
具体的には、相続人の固有の財産について、登記申請をする場合があります。
不動産を取得する場合、取得する人の住所を証明する書類を提出します。
相続手続以外の手続ですから、法定相続情報一覧図の住所の記載は住所証明書とすることができません。
5法定相続情報一覧図の作成を司法書士に依頼するメリット
法定相続情報一覧図は、後に登記官が認証文を付して交付されるので、書き方が厳格に決まっています。
法定相続情報一覧図と似たものに、相続関係説明図があります。
相続関係説明図は、登記官が点検をするものではなく、単なる事情説明の書類に過ぎませんから、比較的自由に書くことができます。
これらの違いを理解して、ポイントを押さえて書くことが重要です。
相続手続が少ない場合など、法定相続情報一覧図を作るまでもないこともあるでしょう。
逆に、銀行口座をたくさん持っているなど、相続手続をする手続先が多い場合は、法定相続情報一覧図は大変便利です。
前提として、戸籍収集や遺産分割のための話し合いもあります。
お仕事や家事で忙しい方は戸籍謄本などの収集はお任せいただけます。
すみやかな手続を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。