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1名義変更していない相続した建物を解体する注意点
①名義変更をしなくても解体できる
老朽化した建物を相続したら、解体したいと考えるかもしれません。
建物の所有者は、老朽化した建物を解体することができます。
建物の所有者は、名義変更をしなくても建物を解体することができます。
②相続財産は相続人全員の共有財産
相続が発生したら、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
一部の相続人が建物を解体することはできません。
他の相続人の建物でもあるからです。
遺産分割協議中は、相続人全員の合意で建物を解体することができます。
建物の名義変更は、不要です。
遺産分割協議とは、相続財産の分け方を決めるため相続人全員でする話し合いです。
遺産分割協議は、相続人全員の合意で成立します。
遺産分割協議中は、相続人全員が共有しているからです。
建物の解体費用は通常、建物の所有者が負担します。
相続人全員で共有する建物だから、相続人全員で負担するべきでしょう。
③相続人全員の合意で遺産分割協議成立
相続人全員の合意がまとまったら、合意内容は書面に取りまとめます。
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容の証明書です。
相続人全員に間違いがないか、確認してもらいます。
間違いがないと確認したら、相続人全員が記名し実印で押印します。
遺産分割協議書の押印が実印によることを証明するため、印鑑証明書を添付します。
遺産分割協議成立後は、建物を相続する相続人が建物を解体することができます。
建物の名義変更は、不要です。
遺産分割協議成立後は、建物を相続する相続人が建物所有者だからです。
建物の解体費用は、建物を相続する相続人が負担します。
遺産分割協議がまとまらないときは、家庭裁判所で遺産分割調停をすることができます。
④行方不明の相続人を除外できない
遺産分割協議成立には、相続人全員の合意が欠かせません。
一部の相続人を含めずに合意しても、無効の合意です。
さまざまな家族の事情から、被相続人や被相続人の家族と疎遠になっている相続人がいることがあります。
長期間疎遠になったまま連絡が取れずに、行方不明になっていることがあります。
相続人が行方不明になっても、遺産分割協議から除外することはできません。
遺産分割協議成立には、相続人全員の合意が欠かせないからです。
行方不明の相続人がいる場合、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任してもらうことができます。
不在者財産管理人とは、行方不明の人の財産を管理する人です。
行方不明の相続人の代わりに、遺産分割協議をすることができます。
2名義変更していない相続した建物を解体する流れ
手順①登記簿で所有者を確認
不動産の登記簿は、手続をすればだれでも取得することができます。
不動産の登記簿を取得して、登記名義人を確認します。
登記名義人が被相続人であることを確認したうえで、相続人調査をします。
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得して、相続人を確認します。
手順②遺産分割協議
相続財産の分け方を相続人全員の合意で決定します。
建物をだれが相続するのか、解体費用はだれが負担するのか遺産分割協議で合意しておくと安心です。
合意内容は、遺産分割協議書に取りまとめます。
遺産分割協議書に取りまとめておくと、相続人間のトラブル防止に役立ちます。
手順③解体業者に相談
解体を進める場合、解体業者に相談し見積りを取るといいでしょう。
建物の構造や周囲の状況によって、解体費用や作業内容は大きく変わるからです。
複数から見積書を取り寄せ、費用の内訳やサービス内容を詳細に確認するといいでしょう。
解体しやすい木造より比較的頑丈な鉄筋コンクリート造は、解体費用が高額になります。
地方より都市部は、解体費用が高額になることが多いでしょう。
重機が入らない細い道路があるケースは、非常に高額になります。
住宅密集地などは、安全対策や近隣対応を重視する必要があるでしょう。
解体に伴う近隣トラブルを防ぐため、近隣対応の内容をよく確認します。
これらの状況を加味すると、解体費用は100万円以上になることは割とよくあります。
建物の解体に合意できても、解体費用を出し渋る相続人が出てくるかもしれません。
解体費用の負担は、軽いとは言えません。
建物の中に不用品がたくさん放置されていることがあります。
解体費用とは別に、不用品の処分費用がかかるでしょう。
相続人間のトラブルを防止するためにも、費用の妥当性を充分に検討する必要があります。
手順④届出の準備
一定以上の建物の解体工事を行う場合、届出が必要です。
主な届出は、次のとおりです。
・建築物除却届
・建築リサイクル法にもとづく届出
・道路使用許可
届出は、解体業者に代行してもらうことができます。
相続人は発注者として、署名押印が必要になります。
手順⑤ライフラインの停止
建物解体に先立って、電気ガス水道などライフラインを停止します。
早めに関係各機関に連絡し、計画的に手続を進めます。
手順⑥解体工事の実施
必要な準備ができたら、解体工事を開始します。
建物の解体は、建物の構造や周辺環境、法律の規制などをふまえ充分な知識と技術が必要です。
信頼できる解体業者に、依頼します。
法令遵守と安全対策を徹底していると、解体工事がスムーズに進みます。
手順⑦滅失登記
解体工事が完了したら、建物滅失登記を法務局に申請します。
建物滅失登記とは、建物が物理的になくなったため登記簿から抹消する手続です。
建物滅失登記は、建物所有者の義務です。
滅失してから1か月以内に、法務局に申請する義務があります。
滅失登記を怠ると、ペナルティーが課されるおそれがあります。
ペナルティーの内容は、10万円以下の過料です。
自分で対応することが難しい場合、土地家屋調査士に相談することをおすすめします。
3勝手に解体したときのリスク
①他の相続人から損害賠償請求
建築後長期間経過している建物は、実質的価値は無いことが多いものです。
価値は無くとも、相続人全員の合意なく建物を解体することはできません。
遺産分割協議中は、相続財産は相続人全員の共有財産だからです。
他の相続人から、損害賠償を受けるおそれがあります。
老朽化した建物であっても、損害賠償が認められるでしょう。
建物に思い入れがある相続人がいた場合、慰謝料請求がされるおそれがあります。
②抵当権者から損害賠償請求
ローンを組むときに、建物を担保に差し出していることがあります。
金融機関はローンの返済が滞ったときに備えて、担保に取っています。
担保に取ったのに、勝手に解体されると金融機関は困ります。
たとえ借金返済が滞っていなくても、担保が壊されたという事実が損害と言えます。
担保に入っている建物を解体すると、金融機関から損害賠償請求がされるおそれがあります。
③建造物損壊罪で5年以下の拘禁刑
遺産分割協議中の建物を勝手に解体すると、刑事責任を問われることがあります。
遺産分割協議中の建物は、相続人全員共有財産だからです。
建造物損壊罪に該当することがあります。
建造物損壊罪に該当すると、最大5年以下の拘禁刑が科されます。
④危険な建物は解体できる
建物が非常に老朽化している場合、放置すると倒壊する危険があります。
放置して倒壊すると、近隣に対して損害を与えるおそれがあります。
近隣に損害を与える危険があるのに放置するのは、あまりに無責任でしょう。
危険な建物は、保存行為の一環として一部の所有者が解体できます。
4土地の売却には相続登記
①令和6年(2024年)4月1日から相続登記義務化
被相続人が不動産を保有していた場合、不動産の名義変更をします。
相続登記とは、不動産の名義変更です。
令和6年(2024年)4月1日から、相続登記には3年の期限が決められました。
相続登記の義務を果たさないと、ペナルティーの対象になります。
ペナルティーの内容は、10万円以下の過料です。
②相続人申告登記をしても相続登記が必要になる
相続した建物を解体する場合、相続登記は不要です。
相続登記をしないまま、建物滅失登記を申請することができます。
建物を解体した後に土地を売却する場合、相続登記が必要です。
相続登記をしないと、買主に所有権移転登記をすることができないからです。
相続人申告登記とは、相続人であることを申し出る制度です。
相続人申告登記をすると、相続登記の義務を果たしたとされペナルティーを免れることができます。
相続人申告登記をしても、相続登記は必要です。
相続人申告登記は、単にペナルティー回避措置に過ぎないからです。
権利登記ではないから、あらためて相続登記をする必要があります。
③譲渡所得税で相続空き家3000万円特別控除
譲渡所得税とは、不動産などを売却して利益が出たときに課される税金です。
条件を満たせば、相続空き家3000万円特別控除を受けることができます。
相続空き家3000万円特別控除を受けることができると、譲渡所得税が少なく済みます。
④存在しない建物の登記が見つかる
登記簿を確認すると、存在しない建物の登記が見つかることがあります。
建物を解体したのに、建物滅失登記を先延ばししていることがあるからです。
被相続人が解体した建物であれば、被相続人が建物滅失登記をする義務があったはずです。
相続人は、建物滅失登記をする義務を相続しています。
建物滅失登記をしないと、登記と現況が異なる結果となります。
買主は、信頼できないと感じるでしょう。
購入する土地を担保にローンを組む場合、金融機関の審査が通らなくなります。
建物の解体をしたら、すみやかに建物滅失登記をするのがおすすめです。
⑤存在しない建物が第三者名義
被相続人名義の建物であれば、相続人は建物滅失登記をすることができます。
第三者名義の建物の登記が残っている場合、勝手に建物滅失登記をすることはできません。
建物滅失登記を申請できるのは、建物所有者や建物所有者の相続人だけだからです。
建物滅失登記は、登記官の職権で登記することができます。
利害関係人は、法務局に対して建物滅失登記の申出をすることができます。
土地の所有者は、利害関係人であると考えられています。
建物滅失登記の申出は、申請ではなく登記官に職権に登記を促す手続です。
上申書を作成して、建物が存在しない理由や経緯を詳しく説明します。
登記官が現地調査などで建物不存在を確認したら、職権で建物滅失登記がされます。
5相続後の不動産売却を司法書士に依頼するメリット
相続した不動産を売却したいという方は、少なからずいます。
相続も不動産の売却も、一生のうちに何度も経験するものではありません。
建物を取り壊したのであれば、固定資産税はかからないはずです。
自治体が取り壊しの事実を知らない場合、継続して税金がかかり続けるおそれがあります。
だれにとっても慣れない相続手続と売却手続を並行して進めるのは大変なことです。
建物が取り壊しが終わっているにもかかわらず建物の登記が残ったままの場合、土地を売却することが困難になります。
土地を売却するためには、相続登記が必須です。
建物は取り壊すのであれば、必ずしも、相続登記は必要ありません。
司法書士は土地家屋調査士と連携して、余計な費用や余計な手間をかけないように手続をします。
相続後の不動産売却を確実に進めたい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。