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1名寄帳を活用して相続した不動産を調査する方法
①名寄帳は所有者ごとの不動産一覧表
名寄帳は「なよせちょう」と読みます。
名寄帳とは、土地や家屋を所有者ごとにまとめた一覧表です。
不動産などの固定資産を保有していると、固定資産税の対象になります。
市町村は、固定資産税を賦課徴収するため、固定資産課税台帳を作成しています。
名寄帳は、固定資産課税台帳から所有者ごとに一覧表に取りまとめた書類です。
名寄帳を見ると、被相続人の不動産を一覧で確認できます。
②課税明細書に記載がない不動産を確認できる
毎年4~5月ごろに、固定資産税納税通知書が届きます。
固定資産税納税通知書に、課税明細書が付いてきます。
課税明細書を見ると、固定資産税が課される不動産が列挙されています。
課税明細書に列挙される不動産は、固定資産税の対象になる不動産のみです。
被相続人の不動産であっても、固定資産税が課されないことがあります。
例えば、私道や水路、山林などは、条件を満たすと固定資産税が課されません。
課税明細書を見ても、固定資産税が課されない不動産は確認できません。
名寄帳を確認すると、固定資産税が課されない不動産を確認できることがあります。
③共有不動産を確認できる
被相続人が第三者と不動産を共有していることがあります。
共有不動産の固定資産税納税通知書は、共有者の代表者に対して送られます。
被相続人が共有者の代表者でなかった場合、固定資産税納税通知書は届きません。
相続人が共有不動産について何も聞いていないと、気づけない可能性があります。
名寄帳を確認すると、共有不動産を確認できます。
④固定資産課税台帳と名寄帳のちがい
固定資産課税台帳とは、固定資産税を賦課徴収するための台帳です。
固定資産課税台帳は、不動産ごとに情報が取りまとめてあります。
固定資産税は、不動産などの固定資産に対して賦課するからです。
名寄帳とは、固定資産課税台帳から所有者ごとに一覧表に取りまとめた書類です。
名寄帳は、所有者ごとに情報が取りまとめてあります。
被相続人の不動産を一覧で確認できるから、名寄帳はとても便利です。
固定資産課税台帳と名寄帳の記載内容に、大きなちがいはありません。
⑤名寄帳を見るときのポイント
固定資産課税台帳には、たくさんの情報が記載されています。
相続財産を調査する場合、次の項目に注目するといいでしょう。
ポイント(1)不動産に関する情報
・不動産が土地であるか家屋であるか
・不動産の所在地
・土地であれば、地積、地目
・家屋であれば、家屋の種類、面積
・単独所有であるか共有であるか
ポイント(2)所有者に関する情報
・所有者の住所
・所有者の氏名
ポイント(3)固定資産税評価額
2名寄帳の取得方法
①名寄帳を取得できる人
名寄帳は、その人の財産に関する重要な書類です。
原則として、所有者本人だけが交付請求をすることができます。
所有者本人が死亡した場合、相続人の一人が交付請求をすることができます。
委任状を発行して、代理人に名寄帳を取得を依頼することができます。
②名寄帳を取得するときに必要な書類
相続人が交付請求をする場合、次の書類が必要です。
(1)所有者本人の除籍謄本
(2)交付請求をする人が相続人であることが分かる戸籍謄本
(3)交付請求をする人の本人確認書類
③市町村ごとに交付請求をする
名寄帳は、市町村ごとに発行されます。
不動産が所在する市町村ごとに、手続します。
請求先は、市町村役場の固定資産税の担当課です。
一部の政令指定都市では、各市税事務所で手続をします。
不動産の所在が分からない場合、思い当たる各市町村に請求して確認します。
④名寄帳は郵送請求をすることができる
名寄帳は、窓口まで出向いて交付請求をすることもできるし、郵送請求をすることもできます。
郵送請求する場合、日中連絡ができる電話番号を明記しておきましょう。
返信用の封筒と切手を同封しておくと、送り返してもらえます。
手続をするときに、単独所有の物件と共有の物件のいずれも交付してくださいとお願いするといいでしょう。
⑤名寄帳に発行手数料
名寄帳を発行してもらう場合、手数料がかかります。
手数料は、請求時期や市町村によって異なります。
多くの場合、1通300円前後でしょう。
名寄帳を郵送で交付請求する場合、手数料は郵便小為替で納入します。
郵便小為替は、郵便局の貯金窓口で購入します。
名寄帳は、単独所有の物件と共有の物件は別々に発行されます。
手数料が別々に計算されます。
⑥令和8年2月から所有不動産記録証明制度
所有不動産記録証明制度とは、法務局で名寄せができる仕組みです。
特定の所有者の不動産が一覧できる見込みです。
名寄帳は不動産が所在する市区町村が分からないと、請求できません。
所有不動産記録証明制度が始まると、見つけやすくなるでしょう。
所有不動産記録証明制度は、相続登記義務化に伴って導入される制度です。
3名寄帳を請求するときの注意点
注意①1月1日時点の所有状況のみ確認できる
名寄帳は、毎年1月1日時点の登記簿の所有者を基準に作成されます。
1月2日以降に登記完了した場合、名寄帳には反映しません。
1月2日以降に手放した不動産は、名寄帳に記載されています。
1月2日以降に手に入れた不動産は、名寄帳に記載されていません。
名寄帳は、参考に過ぎません。
登記簿謄本や売買契約書などを活用して、相続財産を確認するのがおすすめです。
注意点1つ目は、1月1日時点の所有状況のみ確認できることです。
注意②発行した市町村以外の不動産は記載されない
被相続人が複数の市町村で、不動産を持っていることがあります。
名寄帳は、その市町村に所在する不動産のみ記載されます。
発行した市町村以外に所在する不動産は、記載されません。
不動産が所在する市町村が分からないと、思い当たる各市町村に請求します。
注意点2つ目は、発行した市町村以外の不動産は記載されないことです。
注意③法人名義は別
被相続人が会社を経営していることがあります。
会社名義で不動産を所有している場合、被相続人の個人名義の名寄帳に記載されません。
被相続人個人と被相続人の経営する会社は、別扱いだからです。
会社名義の名寄帳が必要である場合、あらためて会社名義の名寄帳を取得する必要があります。
注意点3つ目は、法人名義の名寄帳は別であることです。
注意④証明書としての効力はない
名寄帳は、公的な証明書ではありません。
市区町村長の公印は、押してありません。
原則として、所有している不動産を一覧で確認できる書類に過ぎません。
名寄帳の内容を証明するときは、固定資産税評価証明書を取得する必要があります。
名寄帳は証明書ではないものの、不動産の固定資産税評価額が分かる書類です。
相続登記をする場合、多くの法務局では名寄帳を提出することができます。
注意4点つ目は、証明書としての効力はないことです。
注意⑤名寄帳を発行していない市町村がある
名寄帳は、その人の重要な財産に関する書類です。
機密性の高い個人情報であることを考慮して、名寄帳を発行していない市町村があります。
名寄帳を発行し得いない市町村である場合、課税明細書の再発行を受けることで代用します。
課税明細書には、固定資産税が課される物件のみ記載されます。
現在は固定資産税が課されていない物件であっても、所有状況を把握していることが多いでしょう。
課税明細書を請求するとき「課税されていない物件がある場合は、資産明細書も出してください」と記載すると判明することがあります。
注意点5つ目は、名寄帳を発行していない市町村があることです。
4名寄帳を取得してもクロスチェックが重要
①登記簿謄本を取得して共同担保目録をチェック
名寄帳を取得しても、不動産を見落とす可能性があります。
非課税物件などが網羅されていないことがあるからです。
名寄帳を取得した後、登記簿謄本で権利関係を確認するのは有効です。
金融機関などから借り入れをする場合、複数の不動産を担保に差し出すことがあります。
複数の不動産に共同担保を設定した場合、登記簿の共同担保目録に記録されます。
登記簿謄本の共同担保目録を確認すると、名寄帳にない不動産が見つかることがあります。
②売買契約書や権利証をチェック
被相続人が不動産を取得したときの売買契約書や権利証を確認するのは、おすすめです。
売買契約書を確認すると、売買の対象になった不動産が記載されているはずです。
購入した不動産の権利証があるはずです。
例えば、自宅を購入したときの売買契約書を確認すると、自宅の敷地が売買の対象であることが分かります。
よく見ると、自宅の敷地と一緒に私道の共有持分を購入しているかもしれません。
自宅の権利証の他に、私道の権利証が見つかるかもしれません。
私道は、固定資産税が非課税になることが多いでしょう。
非課税の不動産は、課税明細書に記載されないでしょう。
私道は、近隣の住民と共有することが多いでしょう。
固定資産税納税通知書は、共有者の代表者に届きます。
売買契約書や権利証を確認すると、名寄帳にない不動産が見つかることがあります。
③公図を取得して隣接地をチェック
公図とは、土地の所在や形状を表した図面です。
法務局で取得することができます。
公図を見ると、近接地の地番や形状が視覚的に分かります。
近接地の地番を確認して、登記簿謄本を取得します。
名寄帳に記載がなくても、被相続人の所有する土地かもしれません。
公図を取得して隣接地を確認すると、名寄帳にない不動産が見つかることがあります。
④典型的な見落とし例
ケース(1)固定資産税の非課税地
私道や山林などは、条件を満たすと固定資産税が課されません。
固定資産税の課税明細書に記載されないだけでなく、名寄帳にも記載がないケースがあります。
見落とし例1つ目は、固定資産税の非課税地です。
ケース(2)共有名義の土地
被相続人が不動産を共有している場合、共有者の代表でないと固定資産税納税通知書が届きません。
単独所有の不動産と共有の不動産は、名寄帳が別になっていることがあります。
見落とし例2つ目は、共有名義の土地です。
ケース(3)地番が違う土地
地番は、住所と異なることがあります。
日常生活で地番を使うことは、ほとんどないでしょう。
住所と異なる地番の土地は、見落とされがちです。
見落とし例3つ目は、地番が違う土地です。
ケース(4)相続登記未了の土地
相続財産調査をすると、相続登記未了の土地が見つかることがあります。
被相続人の先祖の名義のままになっている土地は、名寄帳が別になっていることが多いでしょう。
見落とし例4つ目は、相続登記未了の土地です。
⑤見落としがあるとトラブルにつながる
相続財産調査は、重要です。
財産の全容が明らかでないと、相続人間のトラブルにつながるからです。
相続した不動産の見落としがあると、相続登記をしないままになるでしょう。
相続登記義務化で、3年以内に相続登記をしないと10万円以下のペナルティーが課されます。
相続税申告の申告漏れにもつながります。
相続財産調査は、確実に行うことが重要です。
5財産調査を司法書士に依頼するメリット
相続が発生したら、遺族は大きな悲しみに包まれます。
もれなく迅速に相続財産を調査するのは、身体的にも精神的にも大きな負担になります。
負担の大きい財産調査は、司法書士などの専門家に依頼することができます。
被相続人の財産について、相続人もあまり詳しく知らないという例は意外と多いものです。
悲しみの中で被相続人の築いてきた財産をたどるのは切なく、苦しい作業になります。
財産調査でお疲れが出る前に、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。