代償分割をするときの遺産分割協議書

1代償分割で公平な遺産分割協議が期待できる

①代償分割とは

相続財産にはいろいろな財産が含まれています。

不動産のように分けにくい財産もあるし、金銭のように分けやすい財産もあります。

相続財産の大部分が不動産のような分けにくい財産の場合、相続財産の分け方についての合意が難しくなるでしょう。

相続財産の大部分が不動産のような分けにくい財産の場合、代償分割をすることで合意ができる場合があります。

代償分割とは、一部の相続人が不動産を相続し、残りの相続人は不動産を相続した人から、その分のお金をもらう方法です。

②代償分割のメリット

(1)共有のトラブルを防ぐことができる

不動産のような分けにくい財産を平等に分けたい場合、共有にする方法が思い浮かぶかもしれません。

不動産を共有にした場合、活用方法や処分方法について共有者間で合意ができなくなるおそれがあります。

代償分割をする場合、不動産を単独所有にすることができますから、共有のトラブルにはなりません。

(2)不動産を処分しなくてよい

換価分割の場合、不動産を手放してお金に換えた後、お金で分けます。

不動産に相続人の思い入れのある場合、手放すことに罪悪感を感じてしまうかもしれません。

代償分割では、不動産自体を処分することはありません。

(3)不動産の利活用がしやすい

現物分割の場合、現物の不動産を分割します。

極端に小さな土地になると利活用が難しくなるでしょう。

利活用できない不動産は価値が下がる心配があります。

③代償分割のデメリット

(1)不動産の評価額を決めるのが難しい

代償分割をする場合、換価分割と違って実際に不動産を処分するわけではありません。

不動産の評価に対する考え方は、いくつもあります。

不動産をいくらと考えて代償分割をするのか相続人間の合意がまとまらないおそれがあります。

代償金を払う人から見れば不動産の価値は低い方が有利です。

代償金を受け取る人から見れば不動産の価値は高い方が有利です。

(2)代償金を準備する必要がある

代償分割をする場合、不動産を相続する人が代償金を払わなければなりません。

もともと住んでいた自宅の名義書き換えのために、代償金を払うことに納得できなくなるかもしれません。

2遺産分割協議で代償分割をするときの注意点

①代償分割であることをはっきり記載する

相続財産の分け方は相続人全員の合意が不可欠です。

相続人全員の合意ができたら文書に取りまとめます。

相続人全員の合意内容を取りまとめた文書を遺産分割協議書と言います。

遺産分割協議書にはっきり書くことで、紛争を防止することができます。

代償分割の場合、次のことを明示するといいでしょう。

(1)代償分割でどの相続人が財産を相続するか

(2)代償分割でだれからだれに代償が支払われるか

遺産分割協議書に代償分割をすることをはっきり書くことで、遺産分割の一環であることを示すことができます。

遺産分割協議書に代償分割をすることが書いてない場合、単なる贈与であると判断されかねません。

単なる贈与と判断された場合、金額によっては贈与税が課されることになります。

贈与税は、想像以上に高額になりがちです。

②代償金の決め方

遺産分割協議書に代償分割をすることをはっきり書くことで、原則として、単なる贈与ではないと示すことができます。

代償分割をすると書いて金銭を支払う場合でも、実質的に代償金でないことがあります。

代償分割は、分けにくい財産を相続した相続人が他の相続人に代償金を払う分割方法です。

分けにくい財産の評価額を大幅に超える代償金を払う合意をした場合、実質的に代償金とは認められないでしょう。

代償金名目の贈与と判断されるおそれがあります。

例えば、相続財産が自宅1000万円のみで、相続人が長男と次男の2人の場合があります。

自宅を長男が相続した場合、長男が固有の財産から500万円程度の代償金を支払うのであれば問題はありません。

長男が固有の財産から2000万円の代償金を支払う場合、代償金名目の贈与と判断されるおそれがあります。

例えば、自宅1000万円を長男が相続した場合で、かつ、次男が生命保険の死亡保険金3000万円を受け取っている場合があります。

次男から長男へ1000万円支払うのが平等に見えるかもしれません。

次男が生命保険の死亡保険金を受け取った後、長男に1000万円支払った場合、代償金とは認められないでしょう。

生命保険の死亡保険金は受取人の固有の財産であって相続財産ではないからです。

相続による遺産分割とは無関係に贈与があったと言えます。

遺産分割協議書に代償金と明記しても、実質的に代償金とは認められません。

次男が生命保険の死亡保険金を受け取った後、長男に1000万円支払うこと自体はできないことではありません。

自分の固有の財産は、自由に贈与をすることができるからです。

自分の固有の財産を贈与した場合、金額によっては贈与税が課されます。

3代償分割をするときの遺産分割協議書の書き方と注意点

①代償分割であることを明示する

記載例

相続人○○○○は第○条に記載された財産を取得する代償として、相続人□□□□に対して金○○万円を令和□年□□月□□日限り振込みの方法により支払う。

代償であることを明示していない場合、単なる贈与と判断されるおそれがあります。

単なる贈与と判断された場合、金額によっては贈与税が課されることになります。

贈与税は、想像以上に高額になりがちです。

②代償が金銭である場合の書き方

記載例

相続人○○○○は第○条に記載された財産を取得する代償として、相続人□□□□に対して金○○万円を令和□年□月□日限り、以下の口座に振込みの方法により支払う。

振込手数料は、相続人○○○○が負担する。

□□銀行□□支店

普通預金

口座番号□□□□□□□

口座名義人 □□□□

振込口座を明記し、振込手数料の負担についても記載しておくといいでしょう。

③代償が金銭以外である場合の書き方

記載例

相続人○○○○は第○条に記載された財産を取得する代償として、相続人□□□□に対して相続人○○○○所有の下記不動産を譲渡する。

所有権移転登記手続は、令和□年□月□日までにする。

登録免許税、司法書士報酬等所有権移転のための費用は、相続人○○○○の負担とする。

所在 ○○市○○町○丁目

地番 ○○番

地目 宅地

地積 ○○平方メートル

代償分割をする場合、代償は金銭以外でも差し支えありません。

固有の財産である不動産を代償として贈与することができます。

不動産を特定するために、登記簿の内容を一字一句間違いなく書き写します。

④代償を受け取る相続人が複数いる場合の書き方

記載例

相続人○○○○は第○条に記載された財産を取得する代償として、下記のとおり代償金を支払う。

いずれも、振込手数料は、相続人○○○○が負担する。

相続人□□□□に対して

代償金額 金□□万円

支払期限 令和□年□□月□□日限り

□□銀行□□支店

普通預金

口座番号□□□□□□□

口座名義人 □□□□

振込みの方法により支払う。

相続人◇◇◇◇に対して

代償金額 金◇◇万円

支払期限 令和◇年◇◇月◇◇日限り

◇◇銀行◇◇支店

普通預金

口座番号◇◇◇◇◇◇◇

口座名義人 ◇◇◇◇

振込みの方法により支払う。

4代償金を払ってもらえなくても一方的な解除はできない

代償分割は、分けにくい財産を相続した相続人が他の相続人に代償金を払う分割方法です。

代償金を払うと合意したのに、代償金の支払いが惜しくなる場合があります。

代償金の支払いがない場合、遺産分割協議をやり直したいと考えるかもしれません。

一般的な売買契約において、代金を支払わない場合、契約を解除することができます。

相続財産においては、このような解除制度はありません。

いったん相続財産の分け方を相続人全員で合意した場合、遺産分割協議は終了します。

遺産分割協議が終了した後は、代償金を支払う人と受け取る人の問題になります。

金銭を支払う人と受け取る人の話し合いで解決を図ります。

代償金を支払うと約束した人が支払ってくれなくても、相続財産の分け方の合意をなかったことにはできません。

相続財産の分け方の合意において、代償金の支払が重要な要素であっても債務不履行を理由として解除することはできません。

5遺産分割協議書を公正証書にすると強制執行ができる

遺産分割協議書は、私文書で作られることが大部分です。

私文書で作られた遺産分割協議書であっても、法的に有効な遺産分割協議書です。

代償分割をする場合、分けにくい財産を相続した相続人が他の相続人に代償を払う必要があります。

代償を支払う必要があるのに支払いをしてくれない場合、そのままでは強制執行をすることはできません。

強制執行をするためには、裁判所に訴えて勝訴判決などの債務名義が必要です。

遺産分割の代償金支払いのために、裁判所に訴えるとなると一般の人にはハードルが高いものです。

遺産分割協議書は、公証役場で公正証書にすることができます。

公証人が関与して、代償の支払いを約束してもらうことができます。

相続人が支払う代償が金銭である場合、支払いをしなかったら強制執行に服することを約束してもらうことができます。

相続人○○が上記金銭の支払いをしなかったときは、直ちに強制執行に服する旨を認諾した。

上記のような文言がある場合、公正証書で強制執行をすることができます。

お金を払ってもらう人にとっては、心強いものと言えます。

公正証書でない遺産分割協議書では、強制執行ができません。

代償が金銭でない場合、公正証書で遺産分割協議書を作っても強制執行ができません。

遺産分割協議書を公正証書にした場合で、かつ、代償が金銭の場合、裁判をすることなく直ちに強制執行することができます。

6遺産分割協議書作成を司法書士に依頼するメリット

遺産分割協議書は遺産の分け方について、相続人全員による合意を取りまとめた文書です。

合意がきちんと文書になっているからこそトラブルが防止できるといえます。

つまり、書き方に不備があるとトラブルを起こしてしまう危険があります。

もともとトラブルの火種があるのなら、いっそう慎重になる必要があります。

遺産分割協議書は公正証書にしなくても済むことが多いものですが、慎重を期して公正証書にした方がいい場合があります。

せっかくお話合いによる合意ができたのに、その後にトラブルになるのは残念なことだからです。

公正証書にするためには、手間と費用がかかります。

公正証書にする手間と費用を惜しむと、裁判をするなど大きな手間と高額な費用を負担することになります。

トラブルを防止するため、遺産分割協議書を公正証書にしたい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

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