このページの目次
1使い込みの原因は悪意より不透明さ
①当然使っていいだろうという思い込み
相続トラブルになるのは、お金の不透明さです。
被相続人の財産の使い込みと聞くと、故意の窃盗や横領をイメージしがちです。
使い込みと指摘される行為は、行為者に悪意があるとは限りません。
行為者に使い込みの認識がないことすら、少なくありません。
現実には、悪意よりも不透明さからトラブルが発生する方が圧倒的に多いものです。
生活費や介護費の支出などで「このくらいなら使ってもいい」と考えることがあります。
行為者にとっては、当然の支出であると認識しているはずです。
当然使っていいだろうという思い込みがトラブルを招きます。
②支出の不透明さがトラブルの原因
たとえ適切に本人のために支出しても、使い込みを疑われます。
悪意を持って財産を使ったわけではないのに、使い込みを疑われます。
何にいくら使ったのか分からないと、疑念が生じるからです。
相続財産の使い込みが発生する典型的な原因は、悪意ではなくあいまいな管理です。
適切な支出であっても他の家族が支出を知らないと、勝手に使われたと感じるからです。
実際にも、行為者は使い込んだ意識はありません。
「このくらいなら使ってもいい」と考えています。
家族間の意識のずれが相続トラブルに発展します。
使い込みで相続トラブルになることの本質は、説明不足と言えます。
支出の見える化を確保することで、トラブルを防止することができます。
③見える化のため家族でできること
(1)財産の一覧表を作成
被相続人は、さまざまな財産を持っているでしょう。
預貯金、不動産、株式などの有価証券、デジタル口座、年金、保険などです。
被相続人の財産を整理して、一覧表にします。
財産の一覧表は、家族で共有します。
家族全員が財産状況を把握することができます。
日常的な見える化は、家族の疑念の芽を摘みます。
(2)入出金状況を共有するルールを作る
預貯金の入出金状況を共有します。
定期的に取引明細を家族で確認します。
一部の家族だけが情報を独占することのないようにルールを作ります。
(3)領収書や請求書は開かれた保管
生活費、介護費、治療費などの領収書や請求書は、家族が確認できるように保管します。
領収書や請求書がないと、疑念が広がります。
領収書や請求書を一部の家族だけが保管すると、何に使ったのか分からなくなりがちです。
支出のたびに領収書や請求書を撮影し、クラウドや共有フォルダで保存すると便利です。
家族全員がいつでも、確認できるからです。
見られて困ることがない管理を徹底すると、疑いが生まれなくなります。
(4)本人の意向を確認する
被相続人本人がどのような暮らしを望んでいるか、確認します。
どのようなサポートを望んでいるか、本人の言葉で記録するのが有効です。
支出の判断が本人の意向に沿っていることを示せれば、後々の誤解を防ぐことができます。
本人の意向は、支出の正当性を根拠づける重要な資料になるからです。
2相続財産の使い込みを防ぐ方法
①家族信託
家族信託とは、信頼できる家族に財産を渡して管理運用処分を依頼する契約です。
本人の判断能力が低下すると、契約はできません。
財産をどのように運用管理処分するのか、信託契約で決めておきます。
信託契約で決めた方針に従って、管理運用処分をします。
家族信託には、必要に応じて信託監督人を置くことができます。
信託監督人とは、信託契約の方針どおりに管理運用処分しているのか監督する人です。
家族信託で、あいまいな支出や使い込みの疑いを防ぐことができます。
支出の見える化が家族の信頼を守る仕組みと言えます。
公正証書で信託契約をすると、法的な安全性が高くトラブルを減らすことができます。
②任意後見契約
任意後見契約とは、判断能力が低下したときに備えてサポートを依頼する契約です。
本人の判断能力が充分あるうちに、契約をします。
やってもらいたいことを決めて、契約書に書いておきます。
任意後見契約は、本人の判断能力が低下したときに効力が発生します。
本人の判断能力が低下したら、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをします。
任意後見監督人とは、任意後見人を監督する人です。
任意後見監督人の役割は、監視ではなく助言や相談するパートナーです。
助言や相談を通して、適切に後見事務が行われるように監督します。
任意後見監督人が関与することで、任意後見の公平性と透明性を確保します。
任意後見契約で、あいまいな支出や使い込みの疑いを防ぐことができます。
使い込み防止の本質は、盗ませないことより疑わせないことです。
だれが何をどれだけ使ったか説明できることが相続トラブルを防止します。
任意後見契約は、公正証書でする必要があります。
③財産管理委任契約
任意後見契約は、本人の判断能力が低下すると効力が発生します。
本人の判断能力が充分あるうちは、サポートを受けることができません。
身体能力が低下すると、サポートを受けたいと感じることがあるでしょう。
財産管理委任契約とは、判断能力が低下する前のサポートを依頼する契約です。
本人の判断能力が充分あるうちに、契約をします。
財産管理委任契約をすると、判断能力が充分にあるうちからサポートを受けることができます。
やってもらいたいことを決めて、契約書に書いておきます。
契約書にはっきり書いておくことで、どのようなことをサポートするのか明確になります。
他の家族から勝手に処分したとの誤解を防ぐことができます。
契約書どおりのサポートであれば、正当な支出であると説明しやすくなります。
財産管理委任契約は公正証書でしなくても有効ですが、公正証書がおすすめです。
公正証書は、信頼性が高い公文書だからです。
④認知症になる前に準備しないと法定後見一択になる
財産管理を依頼する契約は、本人が元気なうちにします。
本人が認知症などで判断能力が低下すると、契約ができなくなるからです。
何も対策しないまま認知症になると、法定後見しか選択できません。
法定後見は、家庭裁判所が成年後見人を選任する制度です。
成年後見では、本人や家族が希望する柔軟なサポート体制を作ることができません。
まだ早いと思えるうちに対策することが、重要です。
認知症の疑いがあると、契約の有効性をめぐってトラブルに発展するからです。
3相続開始後は遺言執行者で使い込みを防ぐ
①金融機関に連絡して預貯金口座を凍結
相続発生前後に、一部の相続人が無断で預貯金などを引出すことがあります。
一部の相続人が無断で引き出すことは、許されることではありません。
相続が発生したら、金融機関に連絡して預貯金口座を凍結してもらいます。
預貯金口座の凍結とは、口座取引の停止です。
口座が凍結すると、口座から引出や振込ができなくなります。
いち早く口座凍結すると、使い込みトラブルを防止することができます。
②遺言書があれば遺産分割協議不要
相続が発生したら、相続財産は相続人全員の共有財産です。
遺言書がなければ、相続人全員で遺産分割協議が必要になります。
遺産分割協議とは、相続財産の分け方について相続人全員でする話し合いです。
相続人全員の合意ができないと、いつまでたっても遺産分割ができません。
遺産分割協議中に、一部の相続人が無断で預貯金などを引出すことがあります。
遺産分割協議中のあいまいな管理は、トラブルの温床です。
遺産分割協議が長引くと、使い込みが発生しやすくなります。
被相続人が遺言書を作成しておけば、遺言書のとおりに遺産分割をすることができます。
遺産分割協議をする必要がありません。
③遺言執行者に相続手続をおまかせできる
遺言書を作成するだけでは、意味がありません。
遺言書の内容は、自動で実現するわけではないからです。
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現する人です。
遺言書で遺言執行者を指定すると、遺産整理はおまかせすることができます。
銀行の預貯金などを一時的に管理して、必要な費用を支払い残りを相続人に分配します。
遺言執行者を司法書士などの専門家に依頼すると、迅速に相続手続を進めることができます。
迅速な相続手続が使い込みや使い込みの疑念を生む余地を最小限にします。
④公正証書遺言は検認不要で執行できる
遺言書を作成する場合、自筆証書遺言か公正証書遺言を作成することがほとんどです。
自筆証書遺言は、自分で書いて作る遺言書です。
公正証書遺言は、遺言内容を公証人に伝え公証人が書面に取りまとめる遺言書です。
公正証書遺言を作成したら、公証役場で厳重に保管します。
自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認手続が必要です。
検認手続とは、遺言書を家庭裁判所に提出して開封してもらう手続です。
遺言書検認の申立てをしてから検認期日まで、1か月程度かかります。
公正証書遺言は、検認不要です。
相続が発生したら、ただちに執行することができます。
遺言執行をするまでに長期間経過すると、口座の管理があいまいになるリスクがあります。
公正証書遺言を作成すると、使い込みや使い込みの疑念を生む余地を最小限にします。
4家族の共通認識を制度が支える
使い込みの疑いがあると、深刻な相続トラブルに発展します。
使い込みの疑いの本質は、家族の認識のずれです。
家族の共通認識があれば、深刻なトラブルに発展することはないでしょう。
さまざまな制度や契約は、家族の共通認識を支えます。
財産管理の話は、避けがちです。
家族のトラブルを防止するために話すという前向きな目的の共有が重要です。
家族全員がお金の動きを説明できる状態を維持することで、トラブルを防止することができます。
小さな積み重ねが家族の信頼を守り、争うを防ぐ最大の力になります。
5使い込み対策を司法書士に依頼するメリット
相続財産の使い込みが発生すると、相続人らはお互いに信頼できなくなってしまいます。
多くの場合、熾烈な争族に発展してしまいます。
いったん争族に発展してしまったら、もとのように仲良くすることは難しいでしょう。
対策を先延ばしするほど、リスクは高まるというべきです。
本人が認知症になって対策できなくなってから、相談に来る方が後を絶ちません。
認知症になる前に、早め早めに対策を始めることが大切です。
家族や自分が困らないように、今のうちにできることはしておきたいとお考えになっているでしょう。
家族だけでは話しにくい場合は、司法書士などの専門家と一緒に相談しながら、お話しを進めるとよいでしょう。
