このページの目次
1生命保険の死亡保険金は相続財産ではない
①相続財産は被相続人が生前に保有していた財産
相続が発生したら、被相続人が保有していた財産は相続人が相続します。
相続財産とは、被相続人が生前に保有していた権利や義務です。
被相続人に生命保険がかけてある場合、死亡保険金が支払われます。
被相続人は生前に、死亡保険金を受け取る権利を持っていません。
死亡保険金は、被保険者が死亡した後に発生する権利だからです。
死亡保険金を受け取る権利は、被相続人から引き継ぐ財産ではありません。
被相続人が生前に保有していた財産ではないから、相続財産ではありません。
②生命保険の登場人物と役割
(1)契約者は生命保険を契約した人
契約者は、生命保険契約を締結した人です。
生命保険の保険料を負担します。
契約者は、受取人の指定や変更、契約解除などの権限があります。
受取人の指定や死亡保険金の支払条件は、契約者の意思に基づきます。
被相続人が契約者である場合、死亡保険金を受け取る権利は相続発生時に確定しています。
(2)被保険者は保険金支払いの条件
被保険者とは、死亡保険金の支払い条件になる人です。
被保険者の死亡を契機として、死亡保険金が支払われます。
生命保険契約に基づいて支払われるのであって、被相続人から引き継ぐ財産ではありません。
被保険者の死亡によって、死亡保険金を受け取る権利が確定します。
被保険者の死亡は、死亡保険金を受け取る権利の根拠になるからです。
(3)受取人は死亡保険金を受け取る人
受取人は、死亡保険金を受け取る権利を持つ人です。
受取人は、生命保険契約において契約者が指定します。
死亡保険金を受け取る権利は、受取人の固有の財産です。
複数の受取人がいる場合、契約に定められた比率に従って分配されます。
③死亡保険金は受取人の固有の財産
被相続人は生前に、死亡保険金を受け取る権利を持っていません。
生命保険の死亡保険金を受け取る権利は、被相続人から引き継ぐ財産ではありません。
生命保険の死亡保険金を受け取る権利は、受取人の固有の財産です。
生命保険契約に基づいて、受取人が取得する財産です。
被保険者の死亡をきっかけに、受取人が取得する固有の財産です。
④相続放棄をしても生命保険の死亡保険金
相続が発生したら、相続人は相続を単純承認するか相続放棄をするか選択することができます。
相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に相続放棄の申立てをします。
家庭裁判所に相続放棄を認められたら、はじめから相続人でなくなります。
相続放棄をしても、生命保険の死亡保険金を受け取ることができます。
生命保険の死亡保険金は、相続財産ではないからです。
相続人でなくなっても、固有の財産だから死亡保険金を受け取ることができます。
生命保険の死亡保険金を受け取っても、相続放棄をすることができます。
生命保険の死亡保険金を受け取ったことで、相続放棄が無効になることはありません。
生命保険の死亡保険金は、受取人の固有の財産だからです。
2 生命保険の死亡保険金は遺産分割協議の対象外
①生命保険は遺産分割協議不要で受取れる
相続が発生したら、被相続人の財産は相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
遺産分割協議とは、相続財産の分け方について相続人全員でする話し合いです。
生命保険の死亡保険金は、遺産分割協議なしで受け取ることができます。
生命保険の死亡保険金は、受取人の固有の財産だからです。
②死亡保険金は遺産分割協議書に記載不要
遺産分割協議は、相続人全員の合意で成立します。
相続人全員の合意がまとまったら、合意内容を書面に取りまとめます。
遺産分割協議書とは、相続人全員による合意内容の証明書です。
合意内容に間違いがないか、相続人全員に確認してもらいます。
間違いがない場合、相続人全員が記名し実印で押印します。
生命保険の死亡保険金を受け取る場合、遺産分割協議は不要です。
生命保険の死亡保険金は、受取人の固有の財産だからです。
生命保険の死亡保険金は、遺産分割協議書に記載する必要はありません。
③死亡保険金を代償金にできる
相続財産の大部分が自宅などの不動産であることがあります。
不動産は、分けにくい財産の代表例です。
大部分が分けにくい財産である場合、代償分割をすることで合意できることがあります。
代償分割とは、一部の相続人が不動産を相続し、残りの相続人は不動産を相続した人から、その分の代償をもらう方法です。
不動産が高額である場合、代償も相応に高額になります。
生命保険の死亡保険金を受け取って、受け取った死亡保険金を代償として支払うことができます。
生命保険の死亡保険金は、受取人の固有の財産だからです。
④生命保険の死亡保険金がトラブルの原因になる
生命保険の死亡保険金は、普段目にする金額より高額です。
高額な死亡保険金が一部の相続人にのみ支払われると、穏やかな気持ちでいられなくなります。
多くの場合、被相続人の財産から保険料が支払われていたでしょう。
他の相続人からは、財産のひとり占めに見えるからです。
生命保険の死亡保険金は、相続財産ではありません。
生命保険の死亡保険金が相続財産ではないことが、トラブルの原因になります。
⑤生命保険の死亡保険金が特別受益になる可能性
特別受益とは、一部の相続人だけが特別に受け取った利益です。
一部の相続人だけ特別に利益を受け取ったのに、そのまま遺産分割をするのは不公平です。
特別な利益分は、相続財産に持ち戻します。
相続財産に持戻して遺産分割すると、公平な遺産分割をすることができます。
特別受益の制度は、相続人の公平のための制度です。
生命保険の死亡保険金は、原則として特別受益ではありません。
通常は生命保険の死亡保険金は、持ち戻しの対象になりません。
相続財産全体から見て、不相当に死亡保険金が高額であることがあります。
相続が著しく不公平で著しく不平等である場合、持戻しが認められます。
多少の不公平や些細な不平等は、仕方がないことです。
著しく不公平で著しく不平等である場合とは、金額だけで一律に決まるものではありません。
次の点などを考慮して、総合的に判断されます。
・受取人とその他の相続人の関係
・生命保険の受取人が被相続人と同居していたかどうか
・介護などのお世話をしていた状況
・裕福な相続人であるか、生活に困っている相続人であるか
持ち戻しが認められる場合、生命保険の保険金は遺留分の計算の基礎に含まれます。
3トラブル防止のためにできること
対策①受取人の明確化
生命保険の死亡保険金の受取人は、契約者が指定します。
生命保険の死亡保険金を受け取る権利は、受取人の固有の財産です。
生命保険の死亡保険金の受取人が指定されていなくても、相続財産にはなりません。
受取人が指定がない場合、保険法の定めに従って相続人が受け取ります。
相続人が受け取る場合、民法の規定に従い相続人が平等に分け合います。
相続分とは無関係に、全員均等額で分け合います。
保険法や民法の詳細な知識は、あまり知られていません。
相続人の誤解から、深刻なトラブルになるおそれがあります。
受取人の明確化しておくと、トラブルを防止することができます。
対策②遺言書の作成
生命保険の死亡保険金は、遺産分割協議なしで受取ることができます。
遺産分割協議なしで受取れても、トラブルは防げません。
高額な死亡保険金が遺産分割全体のバランスを崩すからです。
生命保険の死亡保険金を含めて、遺産分割の方法を指定するといいでしょう。
遺言書を作成して、遺産分割の方法を指定することができます。
各相続人の遺留分に配慮して、遺産分割の方法を指定するといいでしょう。
遺言書があれば、遺言書のとおりに遺産分割をすることができます。
遺言書を作成するときに、遺言執行者を指名することができます。
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現する人です。
遺言執行者がいると、遺言者にとって安心です。
遺言書の内容を確実に実現してもらえるからです。
遺言執行者がいると、相続人にとって安心です。
時間と手間がかかる相続手続をおまかせすることができるからです。
対策③家族との情報共有
トラブル防止のため、生命保険の内容と被相続人の意図を家族と共有することが重要です。
特に受取人に指定した理由や死亡保険金の位置づけを明確に共有します。
家族と共有すべきポイントは、次のとおりです。
・生命保険契約の内容
保険会社の名称、契約番号、保険の種類、保険金額、支払い条件、特約の有無
・受取人の氏名と指定理由
配偶者の老後資金としてなど、生命保険をかけた理由があるでしょう。
受取人に指定した理由を説明することで、納得を得やすくなります。
・遺産分割のバランス
生命保険の死亡保険金を含めて、遺産分割のバランスを家族と共有します。
生命保険の死亡保険金がトラブルの火種になるのは、遺産分割全体のバランスを崩すからです。
対策④死亡保険金の分割を要求しない
生命保険の死亡保険金は、遺産分割協議の対象外です。
遺産分割協議で分割を共有すると、深刻なトラブルに発展します。
死亡保険金を分割すると、贈与税の対象になります。
生命保険の死亡保険金の額を考慮して、遺産分割協議をする配慮が必要です。
5生命保険の死亡保険金に税金が課される
①生命保険の死亡保険金は相続税の対象
相続財産の規模が一定以上である場合、相続税の申告と納税が必要です。
生命保険の死亡保険金は、相続財産ではありません。
相続財産でなくても、相続税の対象です。
被相続人の死亡をきっかけに、死亡保険金が支払われるからです。
生命保険の死亡保険金には、非課税限度額があります。
非課税限度額の算出方法は、次のとおりです。
非課税限度額=500万円×法定相続人の人数
非課税限度額を計算するときの法定相続人の人数は、相続放棄をした人を含めて計算します。
②死亡保険金を分割すると贈与税リスク
他の相続人が高額な死亡保険金を受け取っていると知ったら、気になるかもしれません。
受取った死亡保険金を相続人間で分配してあげたいと、考えるかもしれません。
受取った死亡保険金を相続人間で分配することは、贈与と評価されます。
生命保険の死亡保険金は、相続とは無関係な受取人の固有の財産です。
高額な贈与をした場合、贈与税の対象になるでしょう。
生命保険の死亡保険金の額を考慮して、遺産分割をすることについて贈与税の心配はありません。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決めることができるからです。
6生命保険の活用を司法書士に相談するメリット
生命保険は相続税の非課税枠があるから、その分の財産を置き換えるだけで有利になります。
生命保険の保険金は相続財産でないことから、遺産分割協議をしなくても、受取人は保険金を受け取ることができます。
生命保険の保険金を遺産分割の代償金にあてるなど、生命保険を上手に活用できれば家族のトラブルを減らすことができます。
特定の相続人を生命保険の受取人とした場合、受取人でない他の相続人は不公平だと感じます。
相続は、家族全員参加の大きなプロジェクトです。
やり直しができない1回限りのプロジェクトです。
家族がトラブルを起こさないようにするためには、事前の対策が欠かせません。
生命保険に入りさえすれば、トラブルにならないという安易な考えは禁物です。
トラブルを起こさないように対策してあると、相続手続きがスムーズなので家族はラクです。
遺された家族に面倒をかけないためにも、トラブルのタネを減らすためにも、事前に準備をしましょう。
家族のトラブルを避けたい方や遺された家族に面倒をかけたくない方は、司法書士などの専門家に相談しましょう。
