生活保護受給者の死亡で相続放棄

1生活保護受給者の権利義務は相続人が引き継ぐ

①生活保護受給権は相続しない

相続が発生した場合、被相続人のものは相続人全員の共有財産になります。

相続人が相続する財産が、相続財産です。

被相続人の財産であっても、相続人に相続されない財産があります。

一身専属権や祭祀用財産は、相続の対象になりません。

一身専属権とは、その人個人しか持つことができない権利や資格のことです。

生活保護受給権は、一身専属権です。

生活保護とは、健康で文化的な最低限度の生活を送れるように国が支援する制度です。

生活に困窮する人は国の支援を受けることができるから、健康で文化的な査定限度の生活が保障されます。

被相続人が生活保護を受けていた場合、被相続人の生活を保障するため国が支援していたと言えます。

生活保護受給者が死亡した場合、その人の生活を保障する必要はなくなります。

生活保護受給者が死亡した場合、生活保護は終了します。

生活保護受給権は、相続されません。

相続人に生活保障の必要がある場合、あらためて相続人が申請をして審査がされます。

②生活保護費返還義務は相続する

利用できる資産を活用してもなお最低限度の生活が維持できない場合、生活保護を受けることができます。

生活保護受給者が収入を得た場合、福祉事務所へ届出をしなければなりません。

福祉事務所は、得た収入を考慮して生活保護の給付を判断するからです。

ときには手続の不手際で、過大な保護費を受け取ってしまうことがあります。

過大に受け取ってしまった保護費は、返還しなければなりません。

生活保護費返還義務を残したまま、生活保護受給者が死亡することがあります。

生活保護費返還義務は、相続人に相続されます。

生活保護受給者が死亡した後に、保護費を過大に受け取った事実が判明することがあります。

相続人は、過大に受け取ってしまった保護費を返還しなければなりません。

福祉事務所からの通知で死亡を知った場合、この通知は死亡の事実を知った証拠になります。

相続放棄をする場合、家庭裁判所へ提出します。

③預貯金を相続する

生活保護を受けるには、利用できる資産を活用してもなお最低限度の生活が維持できないことが条件です。

利用できる資産がある場合、生活保護を受けることができません。

生活保護を受けている場合、預貯金がすべて否定されるわけではありません。

生活必需品が壊れてしまった場合、買い替える資金がないと生活に支障が出てしまいます。

子どもの進学資金などを準備したいことがあるでしょう。

生活保護受給者に預貯金があった場合、預貯金は相続財産です。

相続人が相続することができます。

生活保護は利用できる資産を利用することが条件だから、高額な貯金があることは考えられません。

福祉事務所の考えにもよりますが、おおむね100万円を超えることはできません。

④借金を相続する

生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活を送れるように国が支援する制度です。

最低限度の生活を送れるように国が支援しているから、借金をしていることはないだろうと思うかもしれません。

生活保護受給を受ける要件に、借金の有無は関係ありません。

借金があっても借金がなくても、生活保護の要件を満たしていれば生活保護を受給することができます。

生活保護受給中であっても、借金がなくなることはありません。

借金と生活保護は、無関係です。

現実的には、生活保護受給者があらたな借金をすることは難しいでしょう。

実際にお金を貸す人は、あまりいません。

生活保護受給者が借金をした場合、借金が収入であると判断されるおそれがあります。

収入と判断された場合、生活保護は停止されるでしょう。

生活保護受給を始める前に、借金をしている可能性があります。

生活保護費は最低限度の生活を送るための金額だから、借金を返す余裕はないでしょう。

生活保護受給者が借金を残して死亡することを、想定しておく必要があります。

⑤税金の滞納分を相続する

生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活を送れるように国が支援する制度です。

国が生活を支援している人から税金を徴収するのは、無意味です。

生活保護受給者は、税金がかかりません。

生活保護受給者に税金がかからないから、税金の滞納があると考えていないことがあります。

生活保護を受給する前に、納めるべき税金を滞納していることがあります。

生活保護受給中は、税金の徴収が停止します。

生活保護受給者が死亡した場合、滞納していた税金は相続人に相続されます。

相続人が生活保護受給者でない場合、税金の徴収の停止が解除されます。

相続人に滞納していた税金を払ってくださいと言ってくることがあります。

⑥病院代を相続する

生活保護受給者は、健康で文化的な最低限度の生活を送れるように国から支援を受けています。

健康で文化的な最低限度の生活のため、原則として、病院の自己負担がありません。

生活保護の医療扶助が適用されない治療を受けていることがあります。

医療扶助が受けられない治療の自己負担は、10割です。

治療内容にもよりますが、高額になることが多いでしょう。

医療扶助が受けられない治療の自己負担は、相続人が負担することになります。

2生活保護受給者の死亡で相続放棄

相続が発生した場合、被相続人のものは相続人全員の共有財産になります。

生活保護受給者が死亡した場合、プラスの財産が多いことはまず考えられません。

そのうえで税金の滞納や借金がある可能性があります。

相続を単純承認した場合、相続人は滞納していた税金を支払い借金を返済しなければならなくなります。

余計なトラブルを避けるため、相続放棄をすることができます。

3相続放棄をするときの注意点

①相続放棄は3か月以内に

相続が発生した場合、単純承認するか相続放棄をするか選択することができます。

相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に対して相続放棄の申立てをします。

相続放棄の申立てには、期限があります。

相続の申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。

「相続があったことを知ってから」とは、被相続人が死亡して相続が発生し、その人が相続人であることを知って、かつ、相続財産を相続することを知ってから、と考えられています。

3か月以内に必要書類を添えて、管轄の家庭裁判所へ手続しなければなりません。

②相続財産を処分すると相続放棄は無効になる

相続放棄をする前に単純承認をしていた場合、相続放棄はできません。

相続放棄が撤回できないように、単純承認も撤回できないからです。

相続財産を処分したり、利用した場合、単純承認をしたとみなされます。

相続財産を処分したり、利用した場合は相続放棄ができなくなります。

家庭裁判所は事情が分からず書類に問題がなければ、相続放棄を受理してしまいます。

家庭裁判所が相続放棄を受理した後でも、相続財産を処分したり利用した場合は、無効です。

③連帯保証人の義務は相続放棄と無関係

家庭裁判所で相続放棄が認められた場合、被相続人の借金は引き継ぐことはありません。

被相続人が賃貸住宅を借りる際に、家族が連帯保証人になっていることがあります。

連帯保証人は、賃借人が家賃などを払えなくなったときに肩代わりをする人です。

賃借人が家賃を払えなかった場合、肩代わりの人が払ってくれるので賃貸人は安心することができます。

賃貸人と賃借人は、家賃を払う契約をします。

賃貸人と連帯保証人は、賃借人が家賃を払えなかったとき肩代わりをしますと契約します。

家賃を払う契約と連帯保証契約は、当事者と内容が違うまったく別の契約です。

賃借人が家賃を滞納したまま死亡した場合、相続人は相続放棄をすることで滞納家賃を引き継がなくても済みます。

賃借人の相続人に払ってもらえないから、賃貸人は連帯保証人に請求します。

連帯保証人は、肩代わりをしますと約束した人です。

肩代わりの義務は、連帯保証人の固有の義務です。

連帯保証人が賃借人の相続人であったとしても、相続とは関係がありません。

相続放棄をしても、肩代わりの義務はなくなりません。

連帯保証の義務は、相続放棄と無関係だからです。

4生活保護受給者の死亡で葬祭扶助

生活保護とは、健康で文化的な最低限度の生活を送れるように国が支援する制度です。

扶養義務者の扶養があってもなお最低限度の生活が維持できないことが条件のひとつです。

生活保護を受給するために、扶養義務者から扶養を受ける必要があります。

生活保護受給者でないにしても、扶養義務者も経済的に困窮していることがあります。

生活保護受給者が死亡した場合、家族が葬儀を執り行うでしょう。

葬儀を執り行う家族が経済的に困窮している場合、葬儀費用の支払いできないことがあります。

生活保護受給者が死亡した場合、最低限度の葬儀ができるように国が支援します。

最低限の葬儀費用を支給する制度を葬祭扶助と言います。

葬儀を執り行う家族に充分な資産がある場合、国の支援はありません。

葬祭扶助は、葬儀を行う前に申請します。

葬儀を執り行う家族が経済的に困窮して、葬儀費用の支払いできないからです。

葬儀の後に申請した場合は、葬祭扶助が認められません。

葬儀を執り行う家族が葬儀費用を負担できる資産があったはずだからです。

葬祭扶助の対象にできるのは、最低限の費用のみです。

具体的には、死亡の確認、遺体の移送、火葬費用、納骨費用のみです。

通夜や告別式をせず、火葬のみ行います。

戒名やお布施は、親族が負担します。

葬祭扶助が適用される場合、葬儀費用は福祉事務所から葬儀業者に直接支払われます。

5生活保護受給者が死亡したときの相続放棄を司法書士に依頼するメリット

生活保護とは、健康で文化的な最低限度の生活を送れるように国が支援する制度です。

生活保護を受けることで親族からあれこれ言われて、疎遠になっていることがあります。

被相続人の生活状況など分からないことが多いでしょう。

生活保護受給者の生活状況は、ケースワーカーが見守っています。

生活保護受給者は、健康で文化的な最低限度の生活ができる保護費を受け取っています。

最低限度の生活ができる程度の保護費だから、大きなプラスの財産があることは考えられません。

一方で、生活保護受給者はマイナスの財産が見つかることがあります。

相続が発生してから数年経過してから、発見されることも少なくありません。

余計なトラブルに巻き込まれないため、相続放棄をしておくと安心でしょう。

司法書士は、相続放棄をはじめとして相続手続全般をサポートしています。

相続放棄を検討している方は、すみやかに司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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